独歩視点



「あ、そういや独歩。今日は出来るだけ早めでヨロでーす」

「は?」


何が早めでヨロなんだ。俺はこれからあのハゲ課長のいる会社に出社するんだぞ。出社する前から何の話をしているんだ?今日はオフだという一二三が作ってくれた久々の出来たての朝食を頬張りながら思わず間抜けな声が零れる。視線の先ではトトトトト…と一二三の綺麗な指先が流れるようにスマホの画面を叩く。


「いやぁ〜ずっと言うタイミング逃しちゃっててさぁ〜」

「だから何の話だよ」

「ほい、送信」


一二三の声と共に俺の携帯がメッセージを受信したことを知らせる。画面を開けば、予想通り目の前に居る一二三からメッセージが届いていた。そこには一二三の店からほど近い比較的新しそうな居酒屋の住所と画像が載っていた。


「仕事終わったら直で此処に集合な〜」

「随分と急だな」


時折お互いの休みが被っていたりすると近所に食べに行ったり飲みに行ったりするのだが、今日の今日で誘われるとは。いや、一二三も「言うタイミング逃してた」って言ってたし、前々から一二三の中では決定していた事だったのだろう。


「ちなみに先生とコウスケも来るから」

「嗚呼。……ん?……はぁああ?!!!!」


そのまま聞き流してしまうところだったのをどうにか思い留まった自分を褒めてやりたい。サラリと凄いことを言った一二三がスマホから顔を上げ、俺の顔を見てまたヘラリと笑う。


「アハハハハ!独歩ちん凄い顔〜!」

「なんっ?!!はぁああ?!!何でもっと早く言わなかったんだ?!!」

「だーかーらー、独歩が起きてる時に言おうと思ったら中々タイミング合わなくってさ〜!気付いたら当日なっちった!めんごっ!」

「はあああああ?!!!」


何が「めんご」だ!そんな大事な事をどうして先延ばしに…!最悪LINEとか電話とか色々手段はあっただろうに!!と半ばキレかけている自分をどうにか落ち着かせる。駄目だ。今日の夜の事で頭がいっぱいでテンション上がってる一二三に何を言っても笑顔で返されるだけだ。いつもの事だが、朝からこれで疲れていては元も子もない。
聞けば、この前のお泊り事件から顔を見せていないコウスケに一二三がお詫びを兼ねて食べに行こうと誘ったということらしい。折角だし先生も一緒にと駄目元で誘ったら快く承諾してくれたようだ。先生もお忙しいというのにどうしてこうも自分たちに対し優しいのだろうか。もはや感謝しかない。
一二三だけなら少しばかり残業が入って遅れても何の問題も無いが、先生にコウスケがいるとなると話は別だ。何処からともなく襲い掛かってくる絶対的使命感に仕事なんかどうでもよくなる。


「…意地でも定時で上がる。何ならハゲ課長にライムを喰らわせてでも定時で上がってやる。なんなら会社なんて行かないでそのまま直行してやる」

「うわ〜 独歩ちん本気すぎ〜」


会社に行かないのは冗談として、揶揄うような一二三の声を聴きながらチラリと時計に目を移す。家を出る時間が迫っている。いつにも増して美味い朝食の残りを一気に掻き込んだ。そうと決まれば早い。今日の俺の意地は普段とは比べ物にならないのだ。


「俺っちは先生が仕事終わったら一緒に行くし、コウスケもバイト終ったら直で向かうってさ」

「ん。分かった」


ご馳走様。と手を合わせ、食卓を立つ。ジャケットに腕を通し、通勤カバンを手に取る。玄関に向かういつもは重い足取りも今日は少しばかり軽く感じる。脳裏に過ぎる先生とコウスケの笑顔にいつも以上に気合が入る。独歩ちんいってらっしゃい!なんて明るい一二三の見送りを背に受けながら「行って来ます」と返事を返して本時の戦場(会社)へ向かうために玄関を出た。





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