好意(とは言っても衆道のそれではない)を寄せられていることはわかっていた。同時に自分も「弟」に好意を抱いていることもわかっていた。しかしそれを自覚すればするほどに、俺の心は締め付けられる。

(いっそ、嫌われてしまえれば、嫌ってしまえるなら、)

それほど楽なことはない、と思いながら俺はだらしなく足を伸ばし、壁に背を預ける。天井にさえも装飾がちりばめられた俺の城は、やはり質素を基調とする徳川のそれとは全く違うものだった。きっと秀忠はこの城に来たら居心地悪そうに、小さな肩を更に強張らせて縮こまるだろう、と考えているうちにくつくつと笑ってしまっていた。だが、こんな仮定の話など起こるわけなどない。相手は天下の徳川、おまけに将軍様である。たとえ制外の家だと言われようとも、一藩主になど会いにくるはずもない(更に言ってしまえばあいつが自発的に休暇などとるわけもないのである)。
はあ、と息をつけば、白い息が立ち込める。そういえば外は雪が今日も降り積もっていたな、と気だるげに窓の外を見やる。
(――江戸は、あいつは、風邪をひいていないだろうか)
また気付けば弟の心配をしてしまっている。思ったより自分は世話焼きなのだな、と自分の新しい一面に少し苦笑しながら、目を閉じる。

『兄上、兄上、』

その声が妙に聞きたくて、それでも体は動きそうもない。自分が現実逃避をするためとは言っても『体』に溺れすぎたつけがまわってきたのだ、はあ、と吐かれる息は重く、白さを持ちながらも、その中身はどす黒い。

「秀忠、」

すまんな、そう思いながらもう一度力なく瞼を閉じる。どうやら、残されている時間は少ないようだ。もしかしたら、もうこのまま、弟には会えずじまいかもしれない。否、それでいいのだ。兄として、あまり醜態を晒したくはなかった。しかも俺と秀忠の関係はそこらの兄弟よりも脆いものであった。脆く、そして互いが互いに依存しあっている。両者ともそれを知りながら、見ないふりをしているのだ。きっと俺の訃報を聞いたお前はひどく動揺するのであろうな、だがもうそれを防ぐ術もなかったし、時間もない。そんな頃だからこそなのか、思いだされるのは小さいころのことばかり。秀忠と会ったのはもう大きくなってからであったが、兄と呼んでくれたその眼差しが暖かく、穏やかだったのが思いだされる。

(仮定の話は嫌いだが)
(できれば俺も、お前の、本当の兄になりたかった)
(いいや、ただ単に、兄としてでなくとも、お前と一緒にいたかった)

雪が、今日も降る。降る。降る、


「越前の兄上は元気にやっておられるだろうか」
江戸にも、今日は雪が降り積もった。



2012.02.28

志木沢先生の『結城秀康』を読んでからどうしようもなくなったので。なので秀康と秀忠の設定とかはかいこと混ざってる感じになってます。この本は本当に…二人の関係がたまらないです。
しかし長いブランクがあってからの文章だったのでぎこちない…。
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