「俺、お前がいないと生きられる気がしない」

注意深く聞いていなかったら、おそらく聞き逃していたであろう(むしろデンジはそれを望んでいたように思える)言葉が、ぼたりと地に落ちた。言葉の意味からしたらいかにも愛を伝える常套文句のようだが、こいつに至ってはその意味とは全く違う(放っておいたら自然死するようなやつだから)意味にしか俺にはとることができなかった。実際、あいつはどちらの意味で言ったんだか。俺はどっかの千里眼ジムリーダーではないから、それを判断する術はない。

「……だろうな、」

ぱたん。散々積もりに積もっていたあいつの服を洗って、干して、たたむ。それは俺がデンジの家に行けば必ず行う行為で、今日もその例にもれずあいつの服を淡々と畳む。前はこの行為に憤りを感じていたが(何で俺が、と)、今ではもはやその思いすら湧き上がってこない。日常化してしまったのだろうか、はたまた、この行為に対して喜びみたいな、そんな抽象的なものを感じてしまったのだろうか。
目線を色鮮やかなデンジの洗濯ものから、椅子に座って微動だにしないデンジに移す。俺は正座して洗濯ものを畳んでいるために、デンジの顔はだいぶ上のほうにあって、暗くてよく見えなかった。しかしその目は暗く淀んでいることだろう。

「好きなんだ、」

また生気のないあいつが、喋り出す。その言葉もどこまでが本気なんだか。でも俺は単純(なふりをしているだけなのかもしれない)だから、その言葉を真に受けることにした。付き合って何年も経っているというのに、俺はいまだにこいつの言葉を信用しきれない。デンジが生きるために、わざと俺をたぶらかしているんじゃないか?そんな気さえしてくるが、それを俺は見ないふりをする。
デンジの言葉に応じるように、洗濯ものを床に置いてデンジを抱きしめた。いつやっても冷たい細い体だ。

「俺もだよ」

今にも死にそうな体をとどまらせるようにぎゅうと力を込める。そんなことをしてもあいつを止められるわけがないのに。(死なないでくれ、)ただそう思って腕に力を入れる。「苦しいぞ」耳元で薄く笑うデンジの声で、少し力が抜ける。

「オーバ、」肩に触れる涙の感触と、デンジのかすかな声で、また小さく俺は安心する。よかった、まだあいつは生きてる。

「すきだよ。おれは、おまえが」

なのに、あいつの笑う顔に影が見えるのはなんでだよ。



2011.09.17
(ただオーバが大好きで自殺も考えてないデンジと、デンジが自殺しそうで心配なオーバ)
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -