さらさら、さらさら。笹の葉、さらさら。そういえば、そんな歌もあったっけ。たしか、今日は―そうだ―七夕の日。

「今日も生憎の曇りだな」

「…まあ、いいんじゃねえの。宇宙には天気関係無いしあのリア充どもは会えてるんだろうよ」

ビール片手にデンジがつまみのスルメを噛みながら、笑った。しかし、「リア充ども」っていう言い方はひどいと思うぞ。
家のベランダで星でも見ながら酒飲もうぜなんてデンジからのお誘いがあったのはつい30分前。家を飛び出して(あいつが誘うことなんてそう無かったから)、コンビニで酒やらいろいろ買いこんで、デンジの家にあがったのが5分前。そしてその5分間の間にデンジはもうビールを拝借して、俺もそれにつられてビールのプルタブを開けた。
プシュと音を立てて、飲み口の間から見える黄色は俺にとっての天の川の如く、きらきらと輝いた。
横目でデンジを見れば、酒のお蔭かうっすら上気した頬。それだけでも酒のつまみになるくらいに綺麗だった。まあそんな事言えば罵倒やら何やら飛んできそうで(これはさすがに俺もクサいと思うし)言わないが。
ふと空を見上げれば、どんより、重苦しい雲が星の瞬きを遮っている。きっと、その上ではきらきら、綺麗な星たちが川のせせらぎの一つとなって光り輝いていることだろう。一年に一度だけの、今日という日にしか見えない川なのに、どうしてこうも雲は邪魔をするのだろうか。

「いいなあ、天の川、見たかったな」

「いいだろ、別に見なくても。来年を待て」

「本当お前風情っていうのわかってないよな」

「じじいかお前は」

「とにかく!俺は天の川をデンジと見たかったんですー」

俺の意図していることも知らずにデンジがじじいだの何だの言うから、つい口が滑って本音が出てしまった。あ、やばい、と思う頃にはニタニタ笑うデンジの顔。酒の力もあってか、えらくデンジは上機嫌だった。慌てて事を以前のように戻そうとするが、全て後の祭り。

「へえー?オーバくんって意外とロマンチストなんだー」

「………るせー」

「まあ、今日は無理だろうけどさ、また酒買って星見て飲もうぜ、ふたりで」

あ、れ。てっきりまた実力行使(とここでは伏せておこう)でも起こされるかと思っていたら、普通に笑われた。ん?これはデレってやつなのか?いやでもデレとはまた違―ぐるぐると目まぐるしく回る俺の頭の中を覗き見たかのように、デンジは俺の反応を見て爆笑した。そんなひいひい言いながら笑わなくてもいいだろうよ。

「何、期待したの?おまえ」

「………してねえよ!ああ、もう!」

「まあ、それもまた今度な。俺、今すげー眠いし。…だからさ」

『添い寝で我慢しろ』。
そっと耳元で囁かれた酒臭い言葉は、一気に俺の血液を沸騰させるほどの威力を持ち合わせていた。真っ赤な顔は、すぐにデンジが背中を向けた為に見られることはなかったが、熱を冷ますためにもう一度空を仰ぎ見る。結局、天の川も、織姫と彦星というリア充も、俺達にとってはいちゃつく手段にしかならないようだ。
七夕なのに、特に何も祝わずに終わってしまったことを星に謝りながら、俺はベッドへ向かうデンジの背中を追いかけた。

(来年もまたこうやって酒飲もうな!)
(覚えてたらな)



2011.07.09
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