ポッキー


「やあゆずき」

「ああおはよう赤司今日はいい天気だねじゃあね」

 句読点も付けず赤司に相槌さえも入れる隙を与えず、尚且つ穏便に事を済まそうとした私はなんて出来た子なんでしょう。いくら目の前に変質的なストーカーまがい野郎が現れて、しかもそれが我が家にまで来ていたとしてもですよ。挨拶だってしたし、世間話まで盛り込んだとは流石私。そして身の危険を省みて即座に会話を切り、ドアをシャットダウンする決断力と素早さは目を見張るものがあったのではないだろうか。

「いきなりドア閉めるなんて酷いな」

 そうやってにこやかな顔でドアが完全に閉められる前に足を入れ込む瞬発力は、帝光バスケ部主将は伊達ではないなと言わざるを得なかった。

「閉めようとしたのが分かったからね」

 なんだ只のエンペラーアイの無駄遣いかなんだ。とんだ帝光バスケ部主将である。

「よし分かった帰れ」

「お義母さんとお義父さんは?」

「止めてくれないかなあそれ。いつ我が家の子になった」

「いずれなるんだから同じだろう?ゆずきもうちの親をそう呼ぶといい」

「やめろし、怖い怖い怖い。だってお前オヤコロ☆じゃないか。逆らったらうちもオヤコロ☆されちゃうじゃない怖い怖い怖い」

「赤司ゆずきって悪くないな」

「はいシカトー何そのお花畑妄想力お前すごいな」

「お邪魔するよ」

「ちょおま、勝手に入るな」

 会話中も休むことなく私と赤司の攻防が繰り返されていた訳ですが。必死な顔でドアを閉めるべく全身全霊を込める私と、涼しい顔でそれを阻止する赤司。最早攻防というよりも私だけが矢鱈滅鱈疲れるだけだとは薄々気付いておりましたともさ。何事もなかったかのように軽々と私ごとドアを押し退けると、やはり何事もなかったかのように我が家に上がり込んできた。

 あらあら征十郎くん久し振りねぇ。お邪魔なんてそんなのいいのよ早く上がって上がって!……理解して頂けただろうか。この外面オヤコロ野郎のことを父母共々それは大層気に入ってるんですよ。あんたら殺されても知らんからな。
 どう転んでか母も父も赤司と私が所謂カレカノとかいう関係だと思っている様子。あたしは御免被るので否定をし続けているのですが。やだもう照れちゃってうふふふとか母上、殴っていいか。うちの娘はやらん!とか言ってみようぜパピー。まじで、頼むから。……ていうか、部屋の位置を完璧に覚えてる赤司が怖いわ。
 赤司は私のベッドに腰掛けると自分の膝を叩いてみせた。まさかとは思うが、もしや座れと……?いやいやいやいやないないないない。それはそれはいい笑顔の赤司がガチで怖いんすけど。

「で、何の用」

 学生の友である勉強机とセットの椅子に座ってじっとりと見下ろす。勿論膝になんて座りませんとも。

「今日はゆずきに土産があってね」

「いらん」

 すっぱりと言い切った理由は、私の直感がろくでもないと訴えてきたからだ。しかも贈り物に関しては特に、前科何犯だ貴様と言いたい。そんな奴からのお土産だなんて、確実に私にとって喜べる物である筈がない。
 そして取り出された小箱のパッケージを見て、やはり…と確信した。それは小さい頃から老若男女に愛されてきたチョコレート菓子であり、私も結構好きだ。但し、それを持っているのが赤司征十郎だということが問題だった。こんなにも似合わない組み合わせも異様だ。

「どーせポッキーゲームしよーとかだろ、絶対しないから」

「いやまさか」

 そう言いながら爽やかな笑みを絶やさない赤司は、見た目だけは只の眉目秀麗な好青年だった。しかし如何せん中身がアレなので私としてはなんだか腹が立つだけなのだが。

「ポッキーゲームだと途中でポッキーを折ってしまえるしつまらないしね」

「お前の骨折ってやろうか」

「だから」

 徐にスタンダードな赤色のパッケージのそれを開けて一本取り出す。

「僕がチョコレート部分を舐めとるから残りは君が食べてくれ」

「帰れ」




わたしの脳内が花畑なんです
ポッキー&プリッツの日2012


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