潜在意識の続きのようなもの
いくらお付き合いをしていてその相手のことがどうしようもなく好きだとしても四六時中意中の彼のことで頭も胸もいっぱいだなんてことは普通の生活をする上で不可能だと思うしていうかそんな少女漫画のヒロインみたいなことは現実世界ではないことだし自分がそんなことになってしまうなんてことも嫌だと思うだってそれって愛情というか情とかそんなものじゃなくて只の相手に対する依存みたいじゃないか相手がいなければ自分自身が成立しないだなんてことは正直とても困るしそれになんだかすごくすごーく釈然としない。
それこそ空気を吸う度だなんて有り得ない。
「で?」
「なんかムカつく」
「よくそんなしょうもないことを考えるね」
人の好くような爽やかな笑顔で毒を吐いて見せたそいつは、一応想い人であり恋人でもある。
そんな事実に絶望した。脳を細くて鋭い何かで突き刺すような、ひりつく痛みが私を侵食していく。少なくとも好きであるから付き合い始めたのだけれど、その理由も今は私の中に溶け込んで酷く曖昧なものになってしまった。
「つまりどうしたいんだ?斬新な別れ話?」
別れ話だなんて自分で問い掛けながら、それはないということを確信してる物言いになんだか少し腹が立った。けれども確かに別れ話だなんて切り出すつもりは毛頭ないので視線だけで返事をする。
「まあ、そんな話させるつもりもないけど」
人を支配するのが得意らしい彼。人を従えるのが当然らしい彼。恋人関係でもやはりそれは発揮されてしまうらしい。
呼吸を奪われた私は思考を支配されていた。それが彼の望む愛の形なんだとしたらどれだけ自己中心的なんだと憤慨するのと同時に、なんて重たいのだろうと恐ろしくなる。そしてなんて狡猾で、なんて不器用なんだとどうしようもなく愛しく感じてしまうのだ。
従属させることでしか関係を繋げられない。支配することで得られてしまう安心。そんな不器用な彼が愛しくて堪らない。
この感情が支配された結果だとしても、私を確立する情のひとつであることには変わらないのだからそれでも別に構わないのではと思う。好きという感情も理由も私の中に溶け込んでいるのだからそれで充分なのではないか。
そんなことを丸々彼に伝えてみたのだ。彼は表情を崩すこともなく私を見据えたままだった。
「なんだ、つまり愛の告白か」
「そうだよ。只の」
「自棄に素直で怖いな」
「だって知らないみたいだったから」
「……」
「心拍数と同じ回数程度は赤司のことを考えてるよ」
だから大丈夫だよ、とは言ってあげなかった。私を酸欠にさせた罰だ。あいつのことだからそんな私の考えなんて全て悟ってしまうのだろうけど。
彼の手を取ってみた。とても冷たい手なのだけれど存外嫌いでもないのだ。両手で包んでみることにしよう。私の指先が彼の安心できる居場所になれますように、なんてね。
よく分からなくなってしまいました。
実は不安な赤司さん