傍にいたいのに泣き出したい


 俺の家の隣に住まう世間で言う幼馴染みというやつは、ころころとよく笑う子だった。いつの間にやら隣にいて、いつも俺の手を引いて、いつからだったか気付けば――

「あれ」
 前を歩く彼女が振り返る。高い位置で結われたツインテールが揺れた。「なに」という視線を寄越す彼女に手を伸ばす。
 いつも見上げていた彼女はいつの間にか酷く小さくなってしまったようだ。
 可愛らしいツインテールは幼さの象徴だったらしい。俺の好きだったあの髪型は滅多にしなくなってしまった。下ろされた髪は触るのを躊躇う程に綺麗になった。

 俺たちに不幸があったとするならば、それは境遇であったりだとか幼い子供故の微妙な心情であったりだとか。挙げればキリがないのだけれど、まず最大ではなくとも第一の不幸は、彼女の学年が一つ上だったことだ。
 いつも俺の隣にいた彼女の傍らにはやはり当たり前のように俺がいて、よく笑う彼女と少し泣き虫な俺は男女の境が曖昧になる程に仲が良かった。

 だから、彼女が小学校に上がるとき、てっきり俺はあと一年後に共に学校に行くのだと思っていたのだ。
 当然が普通でなくなったとき、俺はどうしようもなくなってしまった。彼女との間に穴とも壁とも言えない何かがどっかりと居座ってしまって、どうやったら元に戻るのかなんて、考えてもどうしようもないことをひたすらどうにかしようと考えた。

 とは言ってみたものの、今現在思春期とやらに突入した俺たちには差し当たって問題というものは、ない。一般的な幼馴染みのようにからかいを嫌って年を重ねる度に離れる距離は、言ってみれば当然だとも思われた。
 距離が離れたと言っても実質的な距離は変わらない訳で。俺のお隣さんの彼女と帰路でばったり、なんてことも少なくない。そうなれば一緒にも帰るし普通に会話も弾む。

 何一つ変わることがなかった。手を繋いでみても離してみても、彼女の瞳は変わらず笑みを浮かべていた。慈愛に満ちた、まるで弟に向けるようなそれに泣いてしまいたくなった。

 帰宅途中偶々一緒になった彼女の髪を、躊躇いを振り払って一束掬ってみた。彼女が驚いて振り返ると、髪はするりと指から逃げていく。それを名残惜しげに目で追って、やはり変わらない彼女の笑顔が苦しかった。

 彼女とは沢山のものを共有してきた。だけど、苦しいのは俺だけみたいだ。

 側にいたい。出来ることならずっと、そしていつも。それが叶わなくて寂しい、切ない。

「ゆずきっちが好き」

 伝える気はなかった。返事なんて分かりきっている。またあの瞳を真っ正面から見るだなんて、そんなの、ひどすぎる。
 けれど伝えてしまったのは、余りにも自然に零れてしまったからで。零れたのは、それが俺にとって余りにも普通のことだったからで。
 特別すぎるこの想いは、もうずっと前から俺を確立する一部となっていた。

 西陽が彼女の頬に差し込む。けれど、決してそれだけでない色に染まっているのは、俺の勘違いではないだろうか。

 もしかしたら、この子も苦しんでいたかもしれない。

 俺は、もう一度だけ彼女の髪に手を伸ばした。


infinity様よりお題拝借


切甘とのリクでしたがこれ…甘…い…か……?
恋愛対象として見られていないと半ば諦めてたりぐるぐる悩んでみたり、



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