彼曰く



 またか、と溜め息を隠そうともせずに漏らしながら眼鏡のブリッジを上げる。

「おかえりなさい真ちゃん」
「おかえりー真ちゃーん」

 おしるこを求めて以下略。帰ってきたら自分の席には厄介なバカップルが居座っている、というのがのが日常になりつつある事実に愕然とする。

「何故俺の席にいるのだよ」

「それはね……実は私は真ちゃんが好きだからなんだ」

「いい加減にするのだよ」

「えー、本気なのに」

「ふん。お、俺の方こそ白河のことがずっとす、好きだったのだよ!」

「な、に」

「好きだ。白河」

「私も大好きなのだよおおおお」

「挙式は年内なのだよ…!」

「こうしてめでたく相思相愛となった私と真ちゃんは仲睦まじく幸せに暮らしましたとさめでたしめでたし」
「めでたくないのだよ」

「何故なのだよ…!」

「いい加減にしろ高尾」

「高尾ではない真ちゃんなのだよー」

「そして私は真ちゃんの嫁なのだよー」

 バカップルの茶番劇に毎度のことながら頭が痛くなる。ケタケタと楽しそうに笑い転げるこの二人を殴るのはまずいかもしれないが、打つのは許されるだろうか。

「でもま、真ちゃんには譲らないのだよ?」

 冗談のような物言いをしながらも寄越す視線は本気を孕んでいて、もう、本当に頼むから他所でやってくれと言いたい。というか、そんなこと百も承知である。

「いらないのだよ」

「ひどーい」

「ブハッ即答とか」

「むしろ欲しいのは高尾の方なのだよ」

「! し、真ちゃん…!」

「高尾、一生俺のリアカーを漕いでくれ」

「真ちゃん、それってプロポーズ……」

「こうして苦難を乗り越えめおととなった俺と高尾はご近所でも評判のリアカー夫婦と呼ばれ」
「頼むからやめてくれ白河」

「私の方が真ちゃんの真似上手いのだよ」

「えー、俺のが上手いだろ」

 頭痛どころか気分も悪くなってきた。やはり可笑しくて仕方ないらしい馬鹿二人は箸が転がっても楽しいお年頃らしく、笑い転げては苛立ちに拍車を掛けた。

「あ、和成は私のだから一生は勘弁してね?」

「いやリアカーも勘弁だからな」

 一生、だなんてこちらの方こそ願い下げだ。この馬鹿二人が隣で一生笑い転げるなど煩わしくて仕方ない。そんな運命断じて認めない。

「あ、そーだ。ゆずきーリアカーは勘弁だけどさー」

「なーに?」

「俺の隣で一生笑ってて下さい」

「なにそれウケる」

 そうしてやはり笑い転げるバカップルが馬鹿夫婦に成り果てる未来を容易に想像することが出来たのが恐ろしかった。どうにか早いところ縁を切らなければ、そんなことを真剣に悩んだ。
 取り敢えず、頼むから他所でやってくれ。



バカップル楽しい
真ちゃんの受難は一生続くと思います


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