海常高校。部活動に力を入れている強豪校であり、特にバスケ部は今年キセキの世代の一人を獲得。選手たちの士気も高く、その中心である主将は自他共に厳しい人であるらしい。今年は特にIHに向けてより一層の心構えであり、学校側からの期待も厚い。設備も流石強豪校と言ったところか、とても充実している。何よりも広い。体育館いくつあるんですか。ていうかここどこですか。今までやたらめったら長々と話していたけれど、とどのつまり何が言いたいのかと言うと。
「迷った」
折角の海常高校との練習試合だというのに、どうしてこうなった。マネージャーとして意気込んで神奈川までやって来たというのに、もう一度言おう。どうしてこうなった。
「なぁ」
「ふぁい!」
いや、何語だし。心の中で自分で突っ込みを入れる。だって如何せん唐突だったものですから。
「ぶ」
む、失礼な。いや確かに私が可笑しな声を上げましたけれど。笑うなんて酷い。ていうかいきなり声を掛けたのはそっちじゃあないか。どうやって噛み付こうか、そう意気込んで振り向く。
あれ、この人月バスで見たことあるぞ。あれだ、例の自他共に厳しいらしい海常の主将。名前は、確か笠松さんだっただろうか。
未だに収まらないらしい笑いを堪える気は、一応あるらしい。待て、というようにこちらに掌を向ける。
「悪い」
「そう思うなら笑わないで下さい」
思わず唇を尖らせてそう言えば、ようやく収まったらしくもう一度謝罪を並べた。
「他校の生徒さんがこんなとこで何してんだ」
「あの、私誠凛バスケ部のマネージャーなんですけど、海常バスケ部の主将さんですよね?」
「なんで知ってんだ」
「月バスは毎月チェックしてるんで!」
そう言えば笠松さんは少し照れ臭そうにというか、居心地悪そうに頭をがしがしと掻いてみせた。
彼に現在迷子中であることを伝えると、また少しだけ笑われた。丁度いいので一緒に連れていってくれるらしいので、そこは感謝ではある。
「今日の練習試合よろしくお願いします」
「ああ、よろしく」
今日使うらしい体育館が目前という所でそう伝えてぺこりと頭を下げれば、頭にぽん、と掌を置かれる。
「え、あの、これは、撫で……?」
「ん? ああ悪い」
ついな、と続けて笠松さんの掌が離れる。少しだけ、残念に思ってしまった。
「じゃあ、皆待ってるので」
行きます、そう言い切るよりも早く笠松さんの手が私の腕を掴んだ。
「なあ、名前は?」
「え、あの、白河です」
「下の名前は」
「ゆずきです」
「なあ、」
「白河!」
いきなりの声と共に後ろに肩を引かれ、そりゃあもう驚いた。反射的に倒れる、と思ったけれど。背中に人の感覚と肩に回された手に支えられて無事だった。
すいません、と告げて誰だか確認すれば渋い顔をした日向先輩。
「何してんだ」
「あの、迷子に、なりまして」
既にクラッチタイムな主将にしどろもどろになりながら説明するけれど、もう既に顔が怖いんすけど。ていうかなんでこんなに機嫌悪いんですか。私の遅刻の所為ですか。助けを求めるつもりで笠松さんを見れば、やだこっちも怖い顔。
「うちの、マネージャーがお世話になりました」
「いや、全然いいすよ」
「もう腕離して貰えませんか」
「そっちこそもう手離しても大丈夫じゃないすか」
「あの、お二方、痛いんですけど」
言い合いと共にギリギリと力が込められてく手に耐えきれずそう漏らせば、二人揃ってバツが悪そうに謝って手が離される。
「じゃあ今日はよろしくっす」
「ああ、よろしく」
「行くぞ、白河」
「あ、はい!」
腕を引かれ、足早にそこから離れる。白河、後方からの呼び掛けに振り向く。
「またな」
やたらと意味深に聞こえたのは自意識過剰だろうか。なんとなく顔が熱い。ぺこり、と頭を下げてから前に向き直る。
すると先ほどよりも不機嫌さが増した日向先輩が立ち止まったので必然的に私も止まった。あの、と声を掛けるのと同時に伸びてきた掌にくしゃり、と頭を混ぜられた。
「う、わ! 何するんですか!」
「ん? あー、消毒?」
「何のですか!」
一頻り私の髪をぐしゃぐしゃにすると日向先輩は満足そうに歩き出して、私的には意味わかんないんですけど。
「勝手にどっか行くな、だあほ」
「はい?」
やはりよく分からない言葉を残して、その説明もないままで、私の少ない容量の脳ミソは大変なことになっておりますが。
まだ試合も始まってないのに、なんだか色々と疲れてしまった。けれど、二人の主将の言動でなんだか心拍数が高まって……カントクに相談してみたら分かるだろうか、そんなことを頭の端で考えながら日向先輩の後を追った。
嘘だよ様よりお題拝借
リクである取り合いがあまり書けなかったのと笠松先輩寄りになってしまった感が否めない……折角出逢い設定も頂けたので書きたかったのです。あと、日向先輩むずかしいっす。色々すみません。