ゼリーで出来たあまい枷


 痒い。先程から右目に違和感を感じていたのだけれど、じわじわと伝って痒みが眼球を侵食する。
 指で擦れば余計に痒みが増すとは知りつつも、それをしてしまうのは不可抗力でしかない。しかしこのままでは痒みが堂々巡りして埒が明かない。

 どうにもならないとは思いつつも苦し紛れに強く目蓋を閉じてみる。やはり変わらない痒みにもう再び目を開けば、至近距離で覗き込む瞳にかち合った。

「さつき、何してんの」
「ん? ゆずきちゃんが目閉じてたから、キス待ちかなって思って」

 そう言ってするりと首に腕を回してくる彼女は、現在部活中であることを忘れているのだろうか。

 め、と人差し指を柔らかい唇に押し当てれば不服そうな顔をしてみせた。そんな顔も可愛らしいだなんて――あ、やっぱり痒い。
 殆んど反射で目を擦れば、さつきに手を捕まれ制される。

「擦っちゃだめ、腫れちゃうよ」

 見せて、とおとがに指を掛けるさつきにされるがままに上を向く。

「どう?」
「んー、目立つゴミは無いけど」
「痒い掻きたい」
「だーめ」

 掻いてもまた痒くなっちゃうでしょ?と続けるさつきの言い分が正しいことは百も承知なのだけれど、だって痒いものは痒い。

「さつき、目薬とかない? すーってするやつ」
「持ってないよー」

 ダメじゃないか。うー、と漏らしながら目を細めればうっすらと涙が滲む。
 ぱちぱちと目蓋を閉じて、開けてを何度か繰り返してみる。やはり痒みは引いてくれない。

 ぎゅともう一度きつく閉じて目を開けば、近距離のさつきが何故だか更に近い。
 ばさばさの睫毛に縁取られた垂れ目が緩く笑むと、ぽってりと甘そうな唇から更に甘そうな舌が――ぺろり、目を舐めとられた。目蓋とかではなく、眼球を。
 反射で滲んだ涙まで舐めとると、やっと舌が離れた。

「何すんの」
「目薬無かったから」
「あんたは目薬なかったら眼球舐めるのか」

 どんな民間療法よ、と言いながら手で右目を覆う。

「ゆずきちゃんなら、舐められない所はないよ?」

 ふふ、と笑う彼女が怖いと思ったのは間違いではない筈だ。


嘘だよ様よりお題拝借


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