大きくてあたたかい手が頬に添えられて心持ち上を向かされる。
こつん、と可愛らしく額同士を合わせてくすくすと笑い合った。沸き上がる幸福感で胸が満たされていく。
ゆっくりと瞼を開けてみれば優しげな眼差しに近距離でぶつかった。
伏し目がちな瞳でもったいつけるように唇と唇の距離が近づく。
距離と比例して心拍数が跳ね上がる。うるさいくらいに心音が強調されているのに、どこか心地好いそれに自然と心が和んだ。
二人の影が重なったとき自分は世界中で一番しあわせだとでも言うような、そんな錯覚に陥った。そして、それも強ち間違いでもないのだなんて思ってしまう私は重症だろうか。
軽く押し当てられて、また角度を変えて今度は少しだけ強くリップ音が鳴った。後頭部に回された右手が髪をくしゃりと混ぜ、もう既に二人に距離は無いのに更に引き寄せられる。
無い距離を私だってもっともっと近付けたくて、少しだけ踵を上げてみる。
そんな様子を彼の目元が笑って私は倒れそうなくらいには胸がいっぱいだった。
名残惜しげに離れて行く唇を追って不意を突いてみると、いつも穏やかな彼の瞳が少しだけ見開いた。悪戯が成功したみたいに嬉しさが込み上がる。
仕返し、とばかりに絶え間無く唇を重ねてくる彼を、どうしようもなく愛しいと噛み締める。
彼以外他には何も要らないだなんて言うつもりはないけれど、少なくとも彼が居てくれれば私は幸せだとそう思える自分はやっぱり重症らしかった。