せいしんあんていざい




 花宮真という男は、いつも唐突だ。今日だってほら、いきなり私の家に上がって来るなり、勝手知ったるというように私の部屋に入ってきたりだとか。
 いくら幼馴染みだからといって妙齢の男女(しかも思春期)を一つの部屋に二人きりにさせるだなんてどういうことだ。まあ、いつものことなんだけれど。

 何をするでもなく、ベッドに横たわりながら時間を潰すことに勤しんでいた私の平穏を撃ち破ったのは、他でもない花宮真だった。自棄に深刻そうな顔をして、いつになく弱気な雰囲気で、雪崩れ込むように私の腕の中に収まった。
 普通こういうのは男女逆なんじゃね?というのはこの際置いておくことにする。

 ぎゅうぎゅう締め付けてくる腕が少しだけ、痛い。それでも肩に顔を押し付けるように埋めて来たりする様子だとか。微かに震えてる指先の所為で、私は花宮を邪険にできない。

 時折、どうしようもなく不安になるときがあるらしい。あの花宮が、だ。そんなときは決まっていつも私の元へやって来る。つまり、今みたいになる。

 花宮が私にだけ、見せる弱さに歓喜する。それは独占欲だとか優越感だとかそんなまっくろな感情なのだけれど、弱っている花宮が愛おしくて仕方ないのだ。母性本能のようなものだろうか。小さくなる花宮が、私を頼るというその事実が嬉しくて仕方ない。


 顔を埋めたまま鼻から深く息を吸い込むと、脱力するように弱々しい空気を吐き出す。痛い程に締め付けていた腕が緩く解かれたかと思えば、今度はすがるようにずるずるともたれ掛かってくる。
 最終的に、私の膝の上に落ち着いた彼の黒髪をあやすようにといてやる。ぐりぐりとでこをすり付けてくる。

 子供みたいだ、と思って少しだけ笑うと。気付いたらしい花宮は見上げながら此方を睨んできた。それもあやすように頭を撫でると少しだけ目元が和らいだ気がした。

 私と花宮だけ。この酷くやわらかで、現実味のないような空間がずうっと続けばいいのになあ、だなんて。そんなことを考えるくらいは赦されるだろうか。






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