好きになったもん勝ち



これの続き




「嗚呼! 本日も麗しいです笠松先輩!」

 開口一番、朝っぱらから今日も今日とて通常運転な白河にも聞こえるように溜め息を吐く。

「ああん! 笠松先輩の溜め息なんて色気! すいませんムービー撮るんでもう一回お願いします!」

 ダメだった、色々と。


 うちの部の中だけで言っても断然俺よりも恋人として適任の奴らはいるだろうに。

 黄瀬と白河は同学年だけあって仲もいい。しかもあのモデルさんは俺と違って女に対して自然に優しくできる。容姿は言わずもが、だ。付き合うなら間違いなく黄瀬だろう。そんなことをそのまま伝えてみた。白河はきょとんとしてから少しだけ考えるような仕草を見せる。


「無いですね!」

 断言される黄瀬を少しばかり不憫に思う。あいつも少なからず白河に気があると端から見ても分かる。いや、そうですねとか言われても困るけど。


「だってあたし笠松先輩が好きだし!」

 いや、それは知ってる。決して自惚れなどではない。毎日毎日聞かされている。

「だからその中身を聞いてんだろ」


 するとまたこいつはきょとんとしてさも当然そうに口を開いた。

「答えてもいいですけど日が暮れますよ?」

 まじでか。まだ朝なのだが。つかそんな真面目な顔でよく言えるな。

「あー、やっぱいいわ」

 なんだかどっと疲れた。まだ朝練もしてないというのにこの疲労感。今日一日持つのだろうか。いや、これくらいで持たせられない様ならこいつと付き合うなんてマネ出来ないのだが。本当にどうしてこうなった。

 体育館に向かって進み始めると、低い頭がひょこひょことくっついてくる。てっきり横に並んでくると思ったのだが、位置的には半歩後ろといったところか。横目で様子を伺ってみると……これは、早歩き……いや、小走り程度には急がせている。

 こういう所が、嫌なんだ。白河のことではない。自己嫌悪の部分の話だ。
 俺が立ち止まると、白河も慌てたように合わせて止まる。やっと隣に来たこいつは驚くくらい小さかった。いや、小さいのは知っていたが。まずコンパスの差が歴然としてあるのに……。本当になんで俺なんだ。


「あ! そうだ!」

 今度はなんだ。

「この前の話、覚えてます?」

 この前って、いつのことだ。いかんせん心当たりが多すぎるというか、いつも一人で喋りまくってるじゃないか。

「胸の話!」

「げほっ、ごほっ」

 不意討ちに思わずむせる。白河は「大丈夫ですか」だなんて言いながら背を擦ってくれるが、誰の所為だ、誰の。

 いや、あの報告は、あれは純然たるからかいだろう。その話をまた蒸し返す気か。本当になんで俺こいつと付き合ってるんだ。


「あれ、森山先輩と黄瀬君にお世話になったんです」

「は?」

 てか、は? バストアップを、お世話? 森山と黄瀬が? お世話って、お世話って。

「でもやっぱり笠松先輩がいいです」

「…………」

「ていうか、笠松先輩じゃなきゃやです」


 これは、どう受け止めたらいいんだ。なんだこの裏切られた感。

「だって森山先輩すぐえっちな方向に持っていこうとするし」

「は?」

「黄瀬君はなんかすぐ泣くし、てか落ち込むし」

 あれ? えっちな方向、をしていた訳じゃないってことか? いや、まあ普通彼氏にそんなこと言わねえだろうけど。なんたって白河だし。人より倫理観ズレてそうだし。


「白河……一つ聞いていいか?」

「はい!」

「お世話って」

「胸囲アップのマッサージの方法とかはやっぱモデルなので黄瀬君が情報沢山くれて、あと食べ物とかストレッチとか。森山先輩は笠松先輩の情報いっぱいくれるし! 胸の話も森山先輩に聞きました!」


 脱力、色々と。なんだかんだ俺もこいつにベタ惚れだと不覚にも再確認する羽目になってしまった。

「あたし笠松先輩大好きなんです。だから少しでも好きになってもらいたいじゃないですか」

 でも、そんなんで惚れたんじゃない。だなんて、言えるか。
 俺を好きだと言うこいつの幸せそうな顔が好きな俺は、一種の自己陶酔なんだろうか。

「ストレッチは手伝ってもらったんですけど、やっぱ触られるなら笠松先輩じゃなきゃやだなーって」

「お前、それどういう意味で言ってんの……」

「え? 何がですか?」

「…………」

「おはよっス! ゆずきっち、笠松先輩」

「…………」

「痛っ! え、ちょ、なんスか! え、ガチの方! それガチの蹴り!」

「…………」

「痛い痛いっス! てか無言で蹴るの怖い! ゆずきっち笑ってないで助けて!」




この後森山先輩も蹴られます

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