砕けろ悪夢

 態とらしく厭な笑みを浮かべる佐原を見上げたのは数秒前。俺は落下してきた立方体の箱を目で追った。

 軽いそれは大きな音こそ立てなかったが、角が歪にへこんでしまった。まるで踊るかのように幾度か跳ねるとぴたりとも動かなくなった。
 当然のことに酷く恐怖の威圧を感じた。黙ったまま近付いて拾い上げると、鮮やかなパッケージが歪みと傷で霞んでしまっていた。中身のないそれはもう不要だとは分かっていたが、拾わずにはいられなかった。決して校内にゴミを残さないためなどという単純な理由ではない、筈だ。

 しかし、いざ理由を考えようとするのはなんだか厭だった。厭と言うよりも癪だった。右手に握られた紙パックに力がこもる。面積の狭い側面が押し潰し、広い側面が少し潰れた。
 抜け落ちた細いストローの先がぴったりと噛み潰されていて。「ストローの噛み癖直したいんだよね」と話していた佐原を思い浮かべる。けれども毎度毎度いつになったら学習するのか、噛み癖は一向に直らない。
 というより、そんなことを言っておきながら、あいつにそれを直す気など無いことも知っている。かなり歪になってしまった紙パックの飲み口の穴から余りの水滴がいくつか滴る。アスファルトの粗い目をぬって広がっていくそれを見るともなく見てから、佐原が引き込まれた教室に走った。

 当然のごとく佐原は逃亡を謀っていた訳だが。その際の色んな諸々含めて膝詰めで説教したいのは山々だ。しかし、まあ、なんというのか。いつもと変わらない嫌味な笑顔につい安心させられてしまった。
 何は盲目だったか。いやそんなことはないと願いますが。


title by人魚


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