世界一不器用な伝え方

ほぼ会話文


『へいよー、さっわむらむらくーん』
「おやすみ」

 唐突な着信は予想通り過ぎる相手からのもので、しかもその異常なテンションに即刻電話を切った俺は正しい筈だ。しかし間髪入れずに再び部屋に鳴り響く着信音をそのままにしておく訳にもいかない。渋々といったように携帯を耳に当てると、予想通りの文句をつらつらと並べ立てられる。

『ちょっとー、いきなり切らないでよ』
「うるさい、何時だと思ってんだ」
『えー?十時くらい?』
「二時半だ、夜中のな」
『まあ大して変わらないじゃん』
「お前の常識が周りと一緒だと思うな」
『え?ごめん聞こえなかったわ』
「……もういいから用件言え」
『あー、あのねー今どうしてもチョコが食べたいんだよねー。ときどきあるんだけど、ムショーに何かを食べたーいってなるんだよねー。澤村もそんなことない?あ、好物とは別にね』
「切っていいか」
『だめだめだめ!だからーチョコ食べたいんだってば』
「食えばいいだろ」
『だってお家にないもん』
「なら諦めろ」
『やーだねー』
「やだも何もどうしようもないだろ」
『澤村買って来てよー』
「……切るぞ」
『ちょ待って待って。ちぇーいいしねー別に』
「おう、諦めろ」
『ううん、自分で買いに行くからいい』
「阿保か、やめろ」
『残念ながらもう家出てるしねー』
「は?」
『だからーコンビニまでの道中暇だから電話掛けたんじゃん』
「おま、この時間にか」
『えー?ごめん何て?聞こえなかっあ、もうコンビニ着いたわ。じゃ』
「ちょ、ま」



「なぜいるし」
「チョコ買えたのか」
「んー、なんかいざ来てみたらそんなに食べたくなくなったわ。そうゆうことってないー?」
「知らん、もういいなら帰るぞ」
「つかなんで澤村がいんの」
「お前がこんな時間に一人で外ほっつき歩いてる所為」
「なんだ私のお陰か」
「おま……お前、髪濡れたままだけど」
「あー、部屋で昼寝ってか夕寝っていうの?取り敢えず居眠りしてて起きたらもう夜中でね。そんで風呂入ってなかったからそのまま入って、あ夜中のお風呂はちょっと怖かったわー。そしたら風呂上りってか風呂入りながらチョコのこと考えてたら食べたくなっちゃってね。乾かすのめんどくさかったし外出たら自然乾燥するかなーって思ってね」
「……寒くない訳」
「いやー、ちょっと舐めてたね。相当寒いわやばいわ笑えない」
「当たり前だろ。つか笑ってんだろ」
「まー平気でしょうよ子供は風の子」
「いつまで子供気分でいるつもりだよ。それで風邪引いたら洒落にならんだろ」
「駄洒落にはなるよね」
「五月蠅い」
「ていうかさー、」
「何」
「どうしてここが分かったし」
「俺の家から一番近いから」
「…なんでだし」
「何が」
「なんで澤村の家から一番近いのが理由になる訳」
「お前は分かりやすい」
「私分かりにくい変な女って評判なんですけど」
「(自覚あるのか)…まあ、付き合い長いし」
「…さいですか。つか送って貰っちゃって悪いね」
「悪いと思うんなら夜中に女一人で出歩くな」
「別にほっとけばいいのに」
「じゃあ次からはそうする」
「ふぅーん」
「お前まじでやめろよ。そんなんでも一応女なんだから。見た目は普通の女子なんだから」
「うわ何この貶されよう」
「じゃあ企むな」
「むふ」
「返事」
「ふぁーい」
「……」
「はーい…」
「ん」
「んぁ、ふぁっふぉーい!」
「うわっ、何だ今の」
「あー、くしゃみー」
「…お前まじで風邪引いたんじゃ」
「くしゃみ=風邪とかそんなベタな。わたし秋冬は植物?の所為でしょっちゅう鼻水じゅるじゅるだから関係ないってー」
「それもそれで問題だけどな」
「まあその内治るでしょ」
「…やっぱ既に風邪引いてるじゃねーか!」
「違う違う風邪気味だから」
「この阿保!…家帰ったら即行風呂に浸れよ。んで温かくして寝ろ」
「あはは、澤村まじオカン」
「五月蠅い」
「それ二回目ですが」
「五月蠅い」
「はい」
「つか、お前の母親とか絶対に御免だ」
「そだねー私もお母さんならどっちかってゆーとスガちゃん辺りがいいなー」
「スガもお前なんてお断りだろうけどな」
「んでー東峰はよわっちいお父さん。面倒臭くなさそう」
「あー、それはイラつく父親だな」
「だねー、んでー以下後輩くんたちはペッt…弟でー」
「おい」
「潔子ちゃんはお隣に住む美しいお姉さま」
「急にいい顔すんな」
「?潔子ちゃんなんだから当然でしょ?」
「あー、はいはい。…で?」
「らに」
「…もの食ったまま喋んな」
「んむ、やっぱオカン」
「黙れ、それ肉まん?一口くれ」
「えー、まあいいけどぉー…うっわ一口めっちゃでかいんだけど!ありえないんだけど!」
「送迎代」
「頼んでないし!」
「あっそ」
「…やっぱさー、坂ノ下のがうまい」
「肉まんなんてどこも一緒だろ」
「気がする」
「曖昧なのかよ」
「つかやっぱ奢ってもらう肉まんが一番うまいよね」
「つくづく図々しいな」
「てかさ、多分さあ」
「何」
「皆で食べるから美味しいんだよねー」
「…そうかもな」
「てか冷めてきちゃったしもういいや、あげる」
「結局かよ、つか送迎させた挙句残飯処理かよ」
「まあそう言ったら聞こえ悪いだけだって」
「あーそー」
「ところで澤村ぁー」
「あー?」
「さっきの続き、何」
「…なんの話の」
「潔子ちゃんがお隣のお姉さま。その後ので?って何」
「……忘れたわ」
「また分かりやすい嘘を。まあいいけど」
「……」
「やっぱ肉まん頂戴」
「はー?つかあと残り一口分くらいしかないけど」
「残り一口を奪うのが最大の楽しみ」
「最悪な女だ」
「んー、うまい」
「坂ノ下のがうまいんだろ」
「んー、どうかな。よくわからん」
「どっちだよ」
「肉まんなんてどこも一緒でしょ」
「それ俺が言った」
「うまいことには変わりないよ、奢りじゃないけど」
「つかいつも部員でもないくせに俺に集るな」
「善処するわ」
「する気ないな」
「かんわきゅうだーい」
「いつからが閑話だ」
「強いて言うなら全部」
「まじか」
「んー」
「……」
「……」
「黙るなよ」
「黙れって言ったり忙しいな」
「お前が急に話し切り替えるから言いにくくなったんだろ」
「なぜばれたし」
「普通に分かるわ。んじゃ俺から、あけましておめでとう」
「うわ、先言われたし」
「つか電話の時点で言えよ。もう明けてから三時間近く経ってるけど」
「うー、あー、うん。あけましておめでとうございます」
「うん」
「……む」
「……」
「お」
「……」
「たんじょびおめでとーございます……」
「なんで敬語だよ。つかそれも過ぎてるしな。今日は旭に言ってやれよ」
「あー、東峰にはメールした。件名までハートで埋め尽くしておいてやった」
「どんな嫌がらせだよ。でもま、ありがとーございます」
「よろしい」
「なんで祝う方がそんな上からなんだ」
「ほい、てなわけで我が家に到着ー」
「お前まじでもうすんなよ」
「そんな念押さなくても大丈夫だよー」
「日頃の行動を省みてから言え」
「私は過去を振り返らない女」
「頼むから振り向いてくれ」
「今の言葉シチュエーションによっては中々萌えるのでは」
「知らん、いいからさっさと中入れ」
「はいはーい」
「温かくして寝ろよー」
「だからオカンかって…おやすみ」
「おー、おやすみー……」


「で、俺はどの立ち位置な訳」

 飲み込んだ問い掛けを誰もいなくなったそこに白く染まる息と一緒に吐き出す。取り敢えず、母親も父親も兄弟もペットは勿論御免こうむる。じゃあ、なんだ俺もご近所さん辺りか。あいつの近所なんて騒がしそうだな。だとかそんなことを考えつつ自分もやっと帰路に着く、全く散々な元旦であった。


title by 獣
お誕生日おめでとう言いたかっただけなんだけど呼び出すなんてできないから誘い出したのさ!
フラグはへし折るためにあry


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