世界から目を背けたい

「東峰、部活やめたってよ」
「や、やめてないよ……!」

 某有名書籍のタイトルから拝借したその言葉をぼそりと零せば東峰は面白いくらい動揺して見せた。因みにその本の内容を私は知らないのだが。
 口元が緩む自覚はある、我ながら意地が悪いし性質も悪いとも。口元は緩むというより歪むに近いかもしれない。

 いつもなら上がる口角と間逆に目元が垂れる、その自覚もあるのだが、どうも今日は可笑しい。
 心なのか頭なのか隅なんだか中心なんだか淡いようで燃え滾るような、そんな燻る感情は苛立ちというものである。微量であることだけは分かるのだが、その曖昧な情は目の前の東峰に向けられている。

「佐原、帰らないの?」
「……東峰は?」

 帰らないの、部活行かないの。敢えてどちらでも取れるよう、そんな曖昧な表現をすれば東峰は口を噤んで分かり易く言葉を詰まらせた。身を引いて椅子の背凭れに背中を預ける様子をなんとなしに眺めた。
 現在東峰の机を境に向かい合うように座っている。別に席が近い訳でもないのだが、気紛れに帰りのHRが終わっても席を立たない東峰にちょっかいを掛けに来ただけなのだ。
 椅子に逆向きに座ることで中々にはしたない格好になってしまってるのをか細い声で注意されたが、直してやる気は更々無い。

「意気地無し」
「……」
「私も……」

 切った言葉の先を問われる前に席を立って、窓の外に目を向けた。いつぞやの落ちたパックジュースはどうなってしまっただろうか。この高さから落ちたのだから潰れてしまったかも、もしかすると未だにそこにあるかもしれない。中身が入ってなくて本当によかったなあ。
 もしそのまま放置されていたら沢山の人に踏まれて誰の目にも留まらぬまま、もしくはそんなフリをされたまま、ぺたんこに潰れていることだろう。
 確かに自分の手元にあったそれを少し思ってみたが、そんなものはどうしようもないし、どうにかしようとも思わない。

 東峰は、どうだろうか。彼の思いだとか心だとか、そんなものは潰れてしまっているのだろうか。歪んでしまっているのだろうか。
 考えてもどうしようもないそんなことを、聞いてみるのは馬鹿らしいと思った。少なくとも、私のすることではないし、そんなキャラでもない。

 振り向いた私を見る東峰の肩が大袈裟に揺れたのをいつものようににまにまと見詰めながら、暫くは東峰を弄り倒してやろうと沸き上がる苛立ちは好奇心と加虐心に変えてみる。
 人より好奇心だとかその他諸々が旺盛なのはやはり自覚済みなので、そこら辺の心配は特にないですがね。


某書籍様から引用 高校のとき異様に流行ってたです


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