望んでも手に入らないのは君だけだ



 いつも通りの二人乗りが、浴衣の所為で横乗りにならなきゃだったりだとか。歩き慣れない下駄の所為で、いつもよりもゆっくりなペースだとか。そんな些細ないつもとの違いに不覚にもときめいてしまったりだとか。私の手を引く彼の掌から伝わる熱に溶かされてしまいそうだとか。きっときっと、そんな全てが、今日という或る夏の日の幻想なんだと思う。

 陽はすっかり影に姿を変えていて、代わりにやわらかで眩い提灯が行く道を照らしてくれる。賑わう人々を包むような、夏の夜特有の蒸し暑いような熱気にくらくらした。
 四方八方が人で溢れかえる道とも言えぬ道をすり抜けて行く。
 折角のお祭りで、手こそ繋いでいるものの、殆んど縦に並ぶように進んで行くのはなんだか情緒に欠ける。
 そんな私たちと其処ら中に溢れかえるカップルたちに大した差は無いように思える。しかしながら、それはあくまでも見た目で言えばの話だった。


「はぐれるなよー」

「その時はホークアイで見付けてもらうからだいじょーぶー」

「無茶言うな」

「あ、和成。あれ食べたい」

「言ってるそばから離れんな」


 屋台を幾つか回った後、人の波から外れる。屋台の通りを出れば、大分人通りは疎らになった。しかし繋いだ手は離さないまま、私たちは目的地まで緩やかなスピードで歩みを進める。


「また振られた」

「知ってる。だから祭り誘ったんだし」

「なんで知ってるの?」

「なんとなく」

「和成も振られたんでしょ」

「知ってたのか」

「気付いた、なんとなく」

「ふーん」


 繋いでない方の手の荷物が小さく揺れる。然り気無く軽い方を渡してくる和成は優しいのだと思う。どきりとすることもある。けれども私たちはまた、今年も遠回りを繰り返す。きっと来年の夏も、再来年の夏も。

 うん。きっと恐らく多分、いや絶対に私は彼が好きなんだと思う。恋なんだと思う。それは彼も同じで、それはとても素敵なことだと、分かってはいる。彼もそれには気付いていて、分かっているんだろうな、と一番最初に気付いたのはいつだったかどちらが先だったのか。

 変化と終焉を恐れた私たちは気付いても知らん振りをした。
 繋いだ手をほどく数年後なんて知りたくない。

 今年も私たちはこの妙に近い距離で、ギリギリの会話をして、些細なことにときめく。



「来年は彼氏と来れればいいな」
「来年は彼女と来れればいいね」


 欲しいのは、君。







黄昏様の企画に参加させて頂きました
お題がツボすぎた。
だがしかしワケわからなくなって頭ぱーん!





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