『……というわけで、今日は遅くまで帰れなくなったんだ。すまないな』




冷え込む昼下がり、受話器を持ちながら呆然と立ち尽くす。
まあ、薄々はわかってましたよ。マリクさんはとても忙しい人ですからね。この時期に悠々と恋人とクリスマスを過ごすだなんて普通許されないよね。わかってたけどやっぱり期待していた分、私の気分の落ち込み具合は凄まじかった。
そんな私を電話越しに察したのか、マリクさんがあー、と言葉を濁らせる。

『じゃあ今日は家に来て泊まってけ。合鍵ちゃんと持ってるだろう?』
「……うん、待ってるね」

プツリと通話を切ると同時に大きなため息が自然と出てきた。今日の予定はなくなってしまったけれど、まったく会えないわけではない。しかも泊まりに行ってもいいと言ってくれた。
まあ今日はイヴ、クリスマス本番は明日なのだ。落ち込み状態から幾分か回復した私はあることを思いついた。

「そうだ、料理いっぱい作っておこう!」

今日は高級レストランで夕食をとるつもりだったから、自分では何も用意していなかった。暇になった午後の時間を使って、ちょっと豪華なものを作ってみよう。思い立ったらすぐ行動、私は食材を買いに出かけた。





料理の腕は悪くない、と自分では思っている。実際家族や友人、そしてマリクさんには好評なのだ。そんな私が本気を出したのだからきっと気に入ってもらえるだろう。見た目にも気配りは忘れない。これは美味しそうだ、と自画自賛してみる。
現在の時刻は夜の十一時半を少し過ぎたところ。そろそろ帰ってきてもいい頃だと思っていると、ガチャリとドアが開く音がした。


「ただいま」

ずっと待ちわびていた姿に思わず飛びついた。おっと、とよろけながらもちゃんと受け止めてくれる。

「ずっと食べないで待ってたんだよ、もうお腹がすいて死にそう」
「すごいな、全部作ったのか?」
「腕によりをかけて作ったから味は保証します」

マリクさんはそうか、と笑ってくっついたままの私の頭を撫でる。ああやっぱり、この温もりがないと私は生きていけないくらい。

「明日は休みにしてもらったからな」
「本当!? じゃあ今日一緒に居られなかった分、明日はずっとくっついてるからね」
「わかったわかった、相変わらず寂しがりだな」

料理を並べたテーブルの前にマリクさんを座らせ、自分もその向かい側の席に着く。
時計の針がちょうど十二の場所で重なった。思い描いていたクリスマスとは違ってはいたけど、貴方と過ごせるならどんな形でも幸せなんです。

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