ひやり。頬に冷たい何かが当たる。空を見上げると、雪が少しずつ降りてきているのがわかった。初雪がクリスマス・イヴだなんて神様はなんてロマンチックなのだろう。
だけど、私が待っていたのはホワイトクリスマスの訪れなんかじゃない。サンタクロースだ。
もちろんサンタが実際に居ないことなんて小学生の時にはもう知っていた。じゃあなんだ。私が望んでいるのは、良い子の皆に平等にプレゼントを配る白髭のおじいさんじゃなくて。
「ナマエ!」
――そう、私だけにプレゼントをくれるサンタクロース。
真っ白なコートに身を包むアスベルは、肩で息をしながら自分の頭についた雪をはらう。
「忘れられたのかと思った」
「ごめん、似合いそうだったから」
「似合う……?」
なんのことかと思っていると、アスベルは手に持っていた紙袋から何かを取り出した。よく見るとそれはこの季節に欠かせない花、深紅のポインセチアを象ったものみたいだ。彼はそれを私の髪にピンで留める。そうか、髪飾りだったのか。
「思った通りだ、すごく似合う」
「これ、どうしたの?」
「来る途中のショーウィンドウで見つけたんだ。どうしてもナマエに着けて欲しくてさ」
そっと髪飾りに触れる。思えば、アスベルが私にくれた初めてのプレゼントだった。
「ありがとう、嬉しい」
「寒いのに待たせてごめんな」
「全然平気だよ」
「嘘つけ、鼻真っ赤じゃないか」
え、と慌てて鞄からコンパクトミラーを取り出して確認する。本当だ、慌てて手で覆って暖める。そんな私をアスベルはおかしそうに笑った。
「そういえばどこに行くか決めてないよね?」
「俺はトナカイさんが連れてってくれるならどこでも行くよ」
「……それはつまり赤鼻だと言いたいわけね」
「まあまあ」
自然に手を取られ、指を絡める。なんだか照れくさいことをけろりとやってしまうところが彼らしいと思う。