クリスマスイヴだね。そうだっけ。今日は雪が降るよ。へえそうなんだ。駅前のツリー綺麗だね。私駅あんまり行かないから知らない。ナマエが前作ってくれたクッキー美味しかったよ。それはどうも。


鳴り止まないメールの着信音にそろそろ飽きてきた。明らかにやる気がみられない私の返信。それでも相手はメールをやめようとしない。しかもその内容が正直どうでもいい独り言。私は痺れを切らし、電話帳から今までのメール相手の名前を探して電話を掛ける。

『どうしたんだい?』
「それはこっちの台詞」

リチャードは今まで何事もなかったように電話に出た。昔からそう。彼は何を考えているのかよく分からない。いい家柄の坊っちゃんのくせに庶民の中の庶民である私と仲良くしたがることを皮切りに、多くの謎を私に残す人物である。世界七不思議のひとつに加えてもいいと思う。他の人は彼をどう思っているのかは知らないけど。
ふいに車が通る音がした。私の部屋の窓は閉めきっていると音はほとんど聞こえない。とすると、音は携帯電話から聞こえてきたことになる。

「外にいるの?」
『ああ、よくわかったね』
「外出してるのにメールってよほど暇なのね」
『人を待っているからね。かれこれ四十分くらい経つけど』

それはすっぽかされたというのでは。やっぱりリチャードの考えていることは分からないわ、と呟くと彼はくすくすと笑いをこぼす。

『でもナマエは何だかんだいって、僕のこといつもわかってるじゃないか』


その一言に、とある答えが頭の中に浮かぶ。ああもうこの人はいつも、いつも。
電源ボタンを押して通話をやめ、慌ててコートを羽織った。適当に引っ張り出した鞄には作りおきのクッキーを袋詰めにして突っ込み、ブーツを履いて外へ駆け出した。
街はクリスマスムードに包まれていた。




いつもとは違う雰囲気の商店街を抜けて駅前広場に出た。大きくて華やかなツリーの下に、彼はいた。

「やっと来たね」
「来てほしいなら来いって言えばいいのに、意味わかんない」
「でも結局わかったから来たんだろう?」

ああ庶民の私には、彼の思考は理解しかねます。全速力で走って息も切れ切れな私は、鞄の中からクッキーを取り出してメリークリスマス、と疲れきった声で言いながら投げつけた。

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