バロニアの晴れた空の下、風に吹かれながら食べるアイスキャンディーはもちろん最高だ。
だけどこうやって気ままに遊んで暮らすねこにん達を見ながら、ほのぼのとした気持ちでまったりと食べるのもなかなか乙なものだと最近思う。

思う……んだけどな。


「まあ、アナタまた来たネコね!」
「私達デート中なんで。別にねすぎさんに会いに来てるわけじゃないですから!」

メルヘンチックな背景に似つかわしくないオーラを放つ二人……じゃないな、一人と一匹。そしてその間には、かなり居づらそうに立つ俺の弟。
というか俺達は宿屋の依頼を受けに来ただけで、決してナマエとヒューバートをデートさせに来たわけではないことを先に言っておこう。

「アナタみたいな小娘には勿体無いコだって何度言えばわかるネコ!」
「わからないのはそっちの方じゃないの、この泥棒猫!」
「んまああ! なんて口の汚い小娘ネコね。あとその服全然似合ってないネコ!」
「ヒューバートが褒めてくれたらそれでいいんですー」
「あ、あの……」

ねこにんの村に来れば決まってこの光景だ。今はもう皆慣れたもので、俺とソフィと教官はアイスキャンディーを買い食いしながら、そしてシェリアとパスカルはとても楽しそうに何かを期待しながらその終わらないバトルを眺めていた。
……あ、はずれ棒。俺ががっくり肩を落とすと、ソフィと教官がこれ見よがしにあたり棒を見せつけてきた。最近二人がなんだか似てきて複雑な気分だ。

アイスキャンディーに気を取られているうちに、ナマエとねすぎさんの口論がヒートアップしていた。今にも殴り合いに発展しそうな勢いである。
そしてついに怒りが頂点に達したナマエが声を大にして言い放った。

「そんなにヒューバートとキスしたかったら、まず私としてみなさいよ!」


な、何を言っているのかわからない……。
斜め上のその言葉に、くわえていたはずれ棒を思わず折ってしまった。
だがその時、今まで間に挟まれていただけだったヒューバートがついに口を開いた。

「だっ、駄目です!」
「なんで!?」
「その……ナマエとキスするのは、ぼくだけで十分です!」

そしてヒューバートはナマエを引き寄せ、キスをした。

って、いやいやいやこの展開はさすがに予想外すぎた。俺はとっさにサイドステップでソフィの視界を遮る。
クエスチョンマークを浮かべるソフィを横目に辺りを見渡せば、ニヤニヤと見物している教官とパスカル。そして恋愛小説を読んで感激しているかのようなシェリア。
ヒューバートとナマエは二人の世界だし、ねすぎさんは電撃を浴びせられたかの様にショックを受けていた。

「きぃぃい! 人の前でいちゃついてんじゃないネコ!」

ねすぎさんは捨て台詞を吐いて泣き叫びながら逃げていく。
何度も言うが、俺達は宿屋の依頼を受けに来ただけで、決して愛憎劇を観に来たわけではない。

あとヒューバート、兄さんはお前がとても心配だ。


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