セピアがかった赤髪と白の服が印象的だった。
その姿はまるで騎士のようで、見事な剣捌きで次々と相手を薙ぎ倒し颯爽と塔をかけ上っていく。
しかし二十三階まで到達した頃、相手に不意をつかれてしまい彼の挑戦は惜しくも失敗となってしまった。
「あー……残念」
ナマエは見物席から身を乗り出して、その姿を目に焼き付ける。だがすぐに後ろからぐいと引き戻された。
「だめよ、落ちたら無事じゃ済まないわ」
「でもリアラも思ったでしょ? あの人なら塔を登りきっちゃうかも、って」
「……ええ、そうね。とても良い目をしていたわ」
でもそれとこれとは別、と強制的にベンチに座らせられる。ナマエは仕方ないなといった表情で、軽食として自ら持参したピーチパイを一口かじる。
「彼もそうだけど、仲間の人たちも強そうだね」
コハクも塔を去っていく彼らを見送りながら、同じくピーチパイを味わっていた。だが物足りなく感じたのか、自身の荷物から四角い箱を取り出した。
「……って、ちょっとコハク! ピーチパイにミソは許さないからね」
「ミソバナナがいけるなら、モモもきっと美味しいから!」
「そもそもミソバナナの時点でおかしいの!」
「そうね、私もさすがにどうかと思うわ」
二人の言い争いを傍観していたリアラも、くすりと笑って指摘する。そこからまたコハクのマイミソについて討議を重ねていた時、黒衣を纏う影が階段を下りてこちらへ向かってきた。
「おかえりヴェイグ」
「ああ、ただいま」
影はマントを脱いで、本来の姿を見せる。そこでナマエは待ってましたと言わんばかりに、すかさず彼にピーチパイの入ったバスケットを差し出した。
「……感謝する」
「どういたしまして。それよりさっきの挑戦者見た?」
「ああ」
ヴェイグは好物を片手に、先程までこの塔を登っていた一人の青年を思い起こす。彼もまた監視者として常に挑戦者を観ていた。
「まあ今回は残念だったけど、次はわからないよ」
よっ、とベンチから立ち上がり、ナマエは再びこのライオットピークを見下ろす。
「もしかしたら私達が番人でいられるのも、あと少しかもしれないわね」
「こうしちゃいられない! 皆で今日から特訓ね!」
「そうだな……」
ここにいる全員が確信していた。そう遠くない未来に、きっと彼らは自分達の前に現れることだろう。そして全力をもって、自分達と闘ってくれるのだろうと。
「あなた達のこと、待ってるからね」
100219