「シェリア、私明日ヒューバートに告白する!」
「よく言ったわナマエ! それでこそ女というものよ!」

窓からは曇りのない濃紺の夜空が覗く、セイブル・イゾレの宿屋の一室。ナマエは突然すっと立ち上がり、覚悟を決めたように宣言した。それを聞いたシェリアは目を輝かせ、ナマエの手を握る。
ナマエは一行と共に旅をするにつれて、仲間の一人であるヒューバートに恋心を抱いていた。幾度かシェリアに相談を持ちかけていたのだが、遂に明日実行に移すというのだ。

「いい? ああいうタイプは攻めて攻めて攻めまくるのよ!」
「うん、私頑張るね!」
「そうと決まれば早く寝ましょう! 夜更かしはお肌に良くないわ」
「じゃあおやすみなさいっ」

二人はささっとベッドに潜り込み、ライトを消し睡眠体勢に入る。その様子を傍観していたパスカルとソフィはしばらく呆気にとられていたが、二人が寝静まったのを確認したパスカルが面白そうに笑った。

「いいねー青春してるねー」
「パスカル、ナマエとヒューバートが戦うの?」
「うーん、ある意味バトルかな」
「そっかあ」





翌朝、昼まで自由行動となったメンバーが街で各々の時間を過ごしていた。
ナマエは柱の影から辺りの様子を伺う。宿屋のロビーにはヒューバートが一人で立っていて、回りには人はほとんど居ないという、ナマエにとって絶好のチャンスだった。ナマエは深呼吸をしてから、一歩を踏み出した。

「あのっ、ヒュ……」
「ヒューバート! ここにいたのか」

その時だった。宿屋の入り口からアスベルが駆け込んできて、ヒューバートを呼び止める。ナマエは一瞬何が起きたのか理解できず、勢いあまってつまずいて転んでしまった。二人はいきなりの音に驚き、ナマエに気づき視線を向ける。少しの間、その場に沈黙が訪れた。


「……そんなところで何をしてるんですか、ナマエ」
「え、いや、あの」
「大丈夫か?」

手と膝を床につき、痛さと恥ずかしさで涙を浮かべるナマエにアスベルは優しい笑顔ですっと手を差しのべる。

「ナマエは危なっかしくて目が離せなくなるよ」
「あ、アスベル……」

ナマエはゆっくりと手を伸ばし、その手を取ろうとする。今のナマエには、アスベルがきらきらと輝いて見えた。そう、ここにもうひとつの恋が――


「生まれるわけないでしょう!」
「いっ!?」

ナマエはその手を、ばしっと叩き落とす。もちろん、何故怒鳴られたのかはアスベルにも、見ていたヒューバートにもわからなかった。すくっと立ち上がって涙を拭うナマエは、アスベルに向けて指を突きつける。

「ロックガガンに飲まれて死ね!」
「なんで!?」

うわあん、と泣きじゃくりながら宿屋を走り去るナマエを、二人はただ見ていることしか出来なかった。


「教官……俺、嫌われてるんでしょうか」
「……あー、とあることわざがあってだな」
「ことわざ?」
「まあ、今回はタイミングが悪かっただけだ。気にするな」


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