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「シュヴァー……レイ、ヴンさん」


 一瞬、『シュヴァーン隊長』と呼んでしまいそうになったのをフレンは慌てて言い直す。
 それでもその呼び方はぎこちないもの。
未だにキチンと呼ぼうとするのが慣れない様子だった。
 レイヴンがシュヴァーン隊長だと分かったのはつい最近のこと。
 それまでは普通にレイヴンのことを『レイヴンさん』と呼べていたのに、いざ正体が騎士団シュヴァーン隊隊長、シュヴァーン=オルトレインと分かってしまってからは、普通に『レイヴンさん』と呼ぶことが出来なくなってしまっていた。


「ん? 何、フレンちゃん。まだ呼び方慣れないの??」


 ひょいひょいとおどけた様子でレイヴンはフレンに近付いてくる。
 レイヴンはそのことに対して「気兼ねすることはない」と言ってくれた。
 しかしフレンの性格上、同じ騎士団の隊長と分かってしまったからには、普通に呼べるようになるまでは難しい。


「……すみません」


 シュン、とフレンはうなだれた。


「あ゛ー、だから謝んなくていいって。フレンちゃんは気にし過ぎだってばー。普通にただのおっさんとして接してくれればいいんだって」


 うなだれたフレンにレイヴンはそう言うがフレンは落ち込んだままだ。
 最近のフレンはレイヴンに謝ってばかりなことが多い。
 まだ呼び慣れない自分に対して嫌気がさしているのだろう。


「僕は駄目ですね…。せっかく隊長…レイヴンさんが気にしなくていいと言っているのに、名前一つまともに呼ぶことが出来ないだなんて…」


 さらに落ち込んだ様子でフレンは言う。どうしても『シュヴァーン隊長』と呼んでしまいそうになることに対して。


「んー…、落ち込む必要性なんてないんだけどねぇー。まぁ、慣れないのはしょうがないっしょ。一応両方ともに俺様っちゃ俺様だし。慣れないなら無理にいきなり『レイヴン』言わなくたっていいのよ?」


 レイヴンは別にシュヴァーンと呼んでも構わないことをフレンに言った。徐々に慣れていけばいいということも。


「それにしても、フレンちゃんが俺様の名前の呼び方で百面相してる姿は可愛いねぇ〜」

「なっ…!?」


 いきなり『可愛い』呼ばわりされたフレンは大いに驚いた。
 レイヴンはニコニコしながら続ける。


「何かさ、俺様の名前を呼ぶ度にコロコロ表情変わってるんだもの。すんごく照れてたりとかさぁー」

「ぼっ、僕は可愛くなんか……っ!!」


 そういうフレンは動揺し、耳まで顔が真っ赤に染まっていた。


「あっはは、そういうのが可愛いってんの!」


 レイヴンはフレンの肩を抱き寄せ、頭をクシャクシャに掻き回した。


「わっ、ちょっと止めて下さいっ!!」


 フレンは真っ赤になったまま、ジタバタと暴れる。
 しかし、レイヴンは止めようとはしない。


「おーい、おっさんいるかー…って。何レイヴンとフレン、2人してじゃれあってんだよ」

「ユーリっ!!」
「おー、青年」


 どうやらレイヴンを探していたらしい、ユーリが部屋の中に入ってきた。
 そして、部屋の状況を見るなり、呆れ顔でそう言ってきた。
 慌てるフレンとのほほんとしているレイヴン。


「…まあ、仲良いことはいいことだからいいけどよ」


 ユーリは軽く頭を掻きながら、小さく言葉を吐く。それは少々気まずそうに。


「で、青年。何か俺様に用か?」

「あ゛ー、まあそうだったんだけど。…というか伝言だよ。リタがおっさんの胸の魔導器の様子見たいから後で来いってさ」

「え゛ーっ!!」


 リタが呼んでいる、というとレイヴンは嫌そうな声を上げた。リタの魔導器への病的までな愛情を知っているからだろう。


「そう言うなって。リタはあれで結構おっさんのこと心配してたんだからよ。しかもあん時かなり無理してただろう?だから尚更な」


 嫌そうな顔をするレイヴンを横目に、ユーリはそうフォローを入れる。
 しかし、レイヴンはそれでも少々嫌そうな顔のままだった。


「ま、そう言うことだから。じゃれあいの邪魔して悪かったな」

「じゃ、じゃれあいって…!!」


 フレンはユーリの一言に、顔を真っ赤にしたまま声を荒げながら言う。


「どうみたって、じゃれあい以外の何ものでもないだろう? てか、赤くなる必要ねぇだろうが。触れ合いの一環として、おっさんと楽しくじゃれあってりゃいいじゃねぇか」


 しかし、そんなフレンにさらりと言いのけるユーリ。


「……っ!」


 その台詞に対し、フレンはぐうの音も出ず、固まってしまう。
 そんなフレンを横目に、ユーリはひらひらと手を振ってその場を後にした。


「まぁー。言うねぇ、青年は」


 ユーリが部屋を出て行ってから少し経った後、レイヴンはポツリと呟いた。
 未だにフレンはレイヴンの腕の中のままで。フレンはフレンでまだ百面相を続けている。
 ユーリに言われたのがショックだったのか、なんなのか。赤くなったり、青くなったりと大忙しである。


「……フレンちゃん、いつまで百面相しているつもり?」

「えっ、あ…、いやその僕は――…」


 百面相しているつもりはない、と言いたいのだろうが、誰がどう見てもフレンは百面相を続けていた。


「してないつもりかも知んないけど、すんごく百面相してるわよ?」

「……」


 フレンは真っ赤なまま、黙り込んだ。
 暴れることを止め、静かになった部屋の中には、トクトクと心音のみが静かに聴こえてくる。
 二人は黙ったままで喋らない。抱き合った形のまま、時間がゆっくりと過ぎていく。
 そんな静寂の続く中、ようやく落ち着き始め、耐えきれなくなったフレンが口を開いた。


「……いつまで抱きついてるんですか?」

「……さぁ? 気の済むまでかねぇ」


 フレンの質問にさらりとレイヴンは答える。
 別に離れてもいいのだが、何となく離れなかった。
 特に意味はない。言うなれば、フレンの反応がレイヴンにとって面白かったのであって。


(だって、可愛い反応してくれるんだもんなぁ……)





バカップル全開なレイフレ。ここまで書いて詰まった。
この後どうもっていこうかを悩んでる。
とりあえずは、名前関係の話。フレンは最終的に開き直ると思われる。


 





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