これだから 困りものなんだ 俺たちの主人は けれども こんな日々が続けばいい、 そう思ってしまうのも 事実で ◆◆◆ 季節は初夏。 若葉は青々と茂り、これから暑くなっていくかという頃。 少々汗の滲む天気の中、威勢の良い声が庭に響き渡った。 「政宗殿!勝負でござるっ!!」 「Hey、来い幸村!!」 カーンカーン、と響く木刀を打ち合う音。 真田幸村と伊達政宗は修行に打ち込んでいた。 「まぁたやってるよ。旦那と竜の旦那」 「そのようだな」 その光景を従者である二人…猿飛佐助と片倉小十郎は眺めていた。 「Ha!!その程度かよ、真田幸村ぁっ!!」 「何のっ!!まだまだでござる!」 カーンカーン、とまた打ち合う音が響く。 「ところで…おい、忍。お前いつの間に忍んでたんだ」 ふと、小十郎は隣にいた佐助に尋ねた。 「ん〜?さぁ、いつだと思う?右目の旦那」 佐助はあっけらかんと言うと、意地悪そうに笑う。 「……」 「俺様の仕事は旦那を守ることでもあるからねぇ。ま、気にしない気にしない♪」 小十郎は溜め息を吐くと、やれやれとした様子で軽く頭を掻いた。 「……まったく。まあ、いいが」 そう言いながら、小十郎は己が主人の稽古姿を身やる。 「おりゃあああああああああっっっ!!!」 「フンっ!!」 楽しそうに蒼紅の二人は稽古に打ち込んでいた。 「完全に二人の世界だね〜」 「……二人の世界かどうかは別として、政宗様も真田も生き生きとしているな」 昔の政宗はあんな風に楽しそうな顔しなかった。 幸村と出会い、政宗は今のような生き生きとした顔をするようになった。幸村が政宗を変えたと言っても過言ではないだろう。 「……真田のおかげ、か……」 小十郎はぼそりと呟く。 「旦那にしろ、竜の旦那にしろ、変わったもんな。二人ともさ」 小十郎の呟きに続けるように、佐助が言った。 「聞こえたのか…」 「ははっ、忍ですから」 佐助はからからと軽く笑った。「内緒話はよく聞くからね」と続けて。 あれから幸村と政宗は、二刻あまりぶっ続けで打ち込みをしていた。 流石に日も暮れてきたので稽古は中断となったが。 今は、井戸で汗を流した後、縁側に座っている。 「はーっ。疲れましたな、政宗殿」 ゆるりと寛ぎモードに入っていた幸村は、隣に座る政宗にそう言葉をかけた。 「HA!何だ?あのくらいでへばってんのか、幸村」 「な、何の!某このくらいでへばったりなどはしませぬ」 政宗が幸村に対し、言葉で煽り立てる。このまま放っておけば第二ラウンドが始まるのは確実だろう。 「はいはい、竜の旦那。旦那を煽らない煽らない」 その様子に佐助が割って入った。 「ほらっ、旦那も!いちいち竜の旦那の言葉に踊らされてちゃ駄目っしょ」 そう言って、佐助はどこに隠し持っていたのやら、幸村の口の中に団子を放り込んだ。 「しかし佐す…んぐっ」 放り込まれた団子のせいで幸村は喋ることを遮断される。 団子の放り込まれた幸村はそのまま大人しくなる。 「よくもまあ…幸村の扱い方を分かってんだなぁ、猿飛」 関心したように政宗は佐助に言った。 「まあ…そりゃ長いこと付き合ってきてますからねぇ。それを言ったら、右目の旦那だって同じなんじゃない?」 ふと、話を振られた小十郎は少々驚いた顔になる。 「え…俺か?まあ…政宗様には幼少の頃から仕えてきてるからな」 「でしょ?俺様も同じだって」 佐助はそう言って、からから笑った。 「AHー…何だ、お前らって似たもの同士なんだな」 「確かに似ておるよな。佐助と片倉殿は」 そんな話をしていると政宗と団子を食べ終えた幸村が交互にそう言った。 「…え、何。俺様たち似てるの?」 「……」 佐助はポカンとした表情で己が主人たちに聞き返した。 「ああ、似てるぜ」 「似ておる」 同時に戻ってくる返事。 「身分とか全然違うんだけど、俺様…。忍隊の隊長とはいえ、ただの忍だし。それに比べて右目の旦那はお付きの従者で武士だよ?本当、俺様とは全然違うって」 「身分とかそういうことではないぞ、佐助」 「むしろ、そりゃ関係ねぇって」 佐助は否定をするが、主二人は口々に言う。 「だっ…だけどさぁ」 「猿飛」 何か言い返そうとしていた佐助に、今まで黙っていた小十郎が口を開いた。 「政宗様と真田が言ってんだ。……まあ、似てるんだろうよ。――しかし、政宗様。それと真田。一体我らのどこが似ていると仰るのでしょうか?」 小十郎は佐助にそう言うと、政宗と幸村に聞き返す。 「AHー、それはだな…」 「それはですな…」 同時に蒼紅の二人は口に出した。 「「 苦労性。 」」 「「…………」」 その答えに小十郎と佐助は絶句するしかなかった。二人ともどうやら悪気は一切ないらしい。 絶句すると同時にフツフツと怒りが湧いてくる。 「あのさぁ…旦那」 「申し訳ありませんが、政宗様…」 「「誰のせいで苦労していると思ってんの(いるのですか)?」」 主従二人は笑ったままで、ドス黒いオーラとともに自分の獲物を手に握る。 佐助は『伝説の一作目』、小十郎は『滋養』を。 「やべ…っ」 「さ、佐助っ…」 失言をしたことに気が付いた蒼紅。その場から逃げ出そうと自然に腰が浮く。 「俺様の教育が悪かったのかなー?」 「この小十郎めの教育が悪かったのでしょうか?」 じりじりと蒼紅に近付いていく小十郎と佐助。 「……っ!!ゆ、幸村!」 「なっ、何でござろう!政宗殿」 二人の気迫に冷や汗を流し始めた政宗は、隣で同じようになっている幸村に慌てて話し掛けた。 「逃げるぞ!!!」 「え…って、うわぁっ!!」 政宗は幸村の返答を聞く前に、そう言うと幸村の手を握り、駆け出した。幸村は突然のことに驚き、声を上げる。 「あっ!!コラぁっっ、旦那ーっ!」 「政宗様ぁーっ!!」 政宗と幸村が駆け出したと同時に、小十郎と佐助の主従も、二人目掛けて走り出した。 そんな四人の様子を見ていた伊達軍の者達は「やれやれ、また始まったよ」と、穏やかに蒼紅主従を眺めるのであった。 そんな日常 ただ、穏やかに流れてく。 (2009/01/13) |