きり→←乱的なきり乱 友達というには深すぎる 恋人というには浅すぎる 言うなれば 友達以上恋人未満 そんな不思議な関係で ギリギリの境界線を さまよっている それが僕らの距離感 それが僕らの在り方 ◆◆◆ 「きーりちゃん」 少々広く開けた原っぱ。 きり丸はそこで仰向けになり、空をのんびりと見つめていた。 いつも隣で聞いている声が聞こえたので、視線だけをそちらに向ける。 そこにはいつも見る乱太郎の姿。 「乱太郎」 「きりちゃん、何やってんの?」 「空見てる」 乱太郎はきり丸の側に行き、隣に腰掛けた。 きり丸はきり丸で、乱太郎に向けていた視線を空の方へと戻す。 さわさわと風が吹き、木の枝が揺れる音。 「きりちゃんってさ、よく空見てるよね。何か考え事?」 「あ゛ー…、まあ」 乱太郎の言葉にきり丸は歯切れの悪い返事をした。 「何、また土井先生とでも喧嘩した?」 その瞬間、ビクリ、ときり丸の肩が震える。 どうやらビンゴのようだ。 (やっぱり当たり…かぁ) こういう時のきり丸は面白い程に分かりやすい。 普段が普段なだけに尚更。 他人には見せないきり丸の弱いところを乱太郎は知っていた。 逆にきり丸も乱太郎の弱さを。 お互いに中途半端な深いところまで足を突っ込んでいる…そんな状態。 友達というには深すぎる。 恋人というには浅すぎる。 お互いに分かっていることだ。 ギリギリのラインで今の状態が保たれていることも。 「きり丸のことだから…バイトだね、十中八九。また女装してバイトしてたんでしょう?」 「ビンゴ」 ほら、また当たった。 「花屋のバイト、女装してやってたらたまたま街に来てた土井先生にバレちゃってさ」 「あまり土井先生を心配させちゃ駄目だよ」 「でも女装の方が食いつきいいんだよ、客の」 「まあ、分からんでないけどさ…」 きり丸の話を聞きながら、乱太郎は乱太郎なりに答える。 「土井先生はきり丸が大事だから怒るんだよ。女装っていうのは危険だしさ」 「別にぃ。俺、男だし」 「いや、そういう問題じゃないでしょう……」 土井先生の気持ちが乱太郎には手に取るように分かった。 きり丸は無頓着過ぎるのだ。 きり丸はきり丸で忍術学園に入るまで一人で過酷な生活を送っていたはずで。 あまりにもそれに慣れすぎて危機感がない。 いや、危機感があったとしても流れに任せてしまっているというか。 乱太郎は乱太郎の父親にそういう話を少しだけは聞いていた。 正確には母親と父親の話しているところを聞いてしまったというべきだが。 何にせよ、きり丸は己の身に対して無頓着なのだ。 もっと己の身を大事にして欲しいと乱太郎は思う。 多分、土井先生もそれは同じ気持ちで。 「兎に角、無茶はしないでよね。土井先生だけじゃなくて僕達だって心配するんだがら」 「へいへい」 きり丸は未だ空を見上げたまま、生半可な返事をした。 「ちょっときりちゃん、ちゃんと聞いてる?」 その生半可な返事に対し不満を持った乱太郎はきり丸の顔を覗き込みながら言う。 「ちゃんと聞いてるよ」 「聞いてない」 きり丸はそんな乱太郎の右頬に手を伸ばし、軽くペチペチと叩く。 乱太郎は乱太郎できり丸の左の頬をつつき始めた。 端から見たら、それはじゃれあっている恋人の姿のようで。 「はぁ、まあいいや。きり丸、そろそろ授業始まるから教室行こう?」 「次、誰」 「……土井先生」 “土井先生”という言葉を聞いて、きり丸が固まる。 そして小さな声で反抗した。 「……俺、行かねぇ」 「後でしこたま怒られたいの?」 「……」 怒られる、その一言が効いたらしい。 きり丸は寝転がっていた身体を起こし上げ、伸びを一つする。 乱太郎も立ち上がり、きり丸の方へと手を差し伸べた。 「さ、きり丸。行こう」 「ああ」 きり丸は乱太郎の手を取り、立ち上がる。 そしてそのまま二人は歩き始めた。 この距離が心地好い 繋いだ手と手は暖かくて。 (10/01/05) |