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甘い甘いお菓子は如何?

とろけるように甘い

甘い
砂糖菓子。



◆◆◆


 空は快晴。暖かな日差しが身体を包み、ふわふわと意識が微睡む。
 甲斐の若虎…紅蓮の鬼こと真田幸村は、縁側でそのまま眠り込んでしまいそうになっていた。

「春というものはどうも眠たくなるな……」

 うとうとと、眠気のせいで船を漕ぐ。その船を漕ぐ度に身体の体制が崩れ、目が覚める。
 しかし、目が覚めるのは一瞬のことで、次の瞬間にはまたコクリコクリと船を漕ぎ始めるのであった。
 先程からそれの繰り返し。

「旦那〜。そんなに眠たいのなら寝たらどうなの?」

 その様子を見ていた幸村の従者…猿飛佐助が幸村の目の前に現れ、そう促した。

「……何だ、佐助いたのか」

 ぼやっとしたまま、幸村は佐助に返事をする。

「しかし、まだ昼間ではないか…。こんな時間に寝るなど……」

 そう言いながらも、幸村は船を漕ぎ続ける。

「そう言うけど旦那、今すぐにでも寝そうになってるよ?」
「……」
「半刻ぐらい寝たらいいんじゃない?用事があれば起こすし。……いきなり戦が起きた時、眠気に負けて打ち取られた…なんてことがあったら困るっしょ?」
「……」

 佐助のその言葉に「じゃあ、半刻だけ…」幸村は言い、すぐに横になり、眠ってしまった。

「…って、旦那。ここで寝るの!?まぁ、こんな陽気な天気だから風邪を引くことはないだろうけど…いっか」

 そう言いながら、佐助は幸村の頭を撫でてその場を後にした。


◆◆◆


 幸村のところを後にした後、佐助が廊下を歩いていると、いきなり後ろから呼ばれた。

「Hey、猿じゃねぇか」

 聞き慣れない異国語の混じった喋り方。
 そんな喋り方を使うのはただ一人…。佐助は呼ばれた方向を振り向く。

「……竜の旦那。来てたんだ」

 案の定、そこには奥州筆頭…伊達政宗が立っていた。

「あぁ。同盟の件で武田のおっさんに用があってな。ところで、幸村はどこだ?」

 軽く説明をした後、政宗は佐助に幸村の居場所を尋ねてきた。

「……旦那なら、縁側でお昼寝中だよ。旦那に何か用なの?」

 佐助は嫌そうな顔をしつつ、政宗に答える。

「そうか。Thank youな」

 政宗は佐助の質問を無視し、縁側へと向かおうとする。

「ちょっ、竜の旦那!!人の質問を無視しないでよ!!」
「あ〜、煩ぇ。幸村にsweet presentを持って来ただけだって」

 無視したことに食って掛かって来た佐助に、政宗は面倒臭そうに言う。

「……そうならいいけどね」

 政宗の回答に、佐助は半疑い眼のまま言った。言葉と視線の中には「旦那に変なことするなよ?」と言うのがひしひしと伝わってくる。
 「お前は幸村のmotherかよ」と喉元まで出かかった言葉を政宗は飲み込んだ。

「present渡すだけだ」

 そう言うと、政宗は佐助をほっといて幸村がいる縁側へと向かったのであった。


◆◆◆


 政宗が縁側へと行くと、そこには佐助の言った通り、幸村が静かに寝息をたてて寝ていた。

(……嘘は吐かれてなかったみたいだな)

 政宗はそう思いながら、幸村へと近付く。何回か佐助には騙されたことがあったからだ。
 眠っている幸村の横に静かに座り、その眠り顔を覗き込んだ。

(……cuteだ、幸村)

 愛らしい幸村の眠り顔を見た政宗は、幸村を無性に抱き締めたくなる。
 しかし、そんなことをすれば幸村が起きてしまうのは明白。
 政宗は、幸村を抱き締めたくなるのを堪える。幸村が起きるまで待つことにした。
 愛しい者の寝顔を見ているのも悪くない…と。

「……ん」

 ゆるゆると視界が開ける。幸村はまだ完全に起きていない頭のまま、ぼぅっと辺りを見渡そうとした。
 しかし、視界はぼやけるばかり。

(一体どれほど眠っていたのだろうか…。半刻ではない気がする。それこそ何刻も寝ていたような……)
「Good morning、幸村」

 幸村がそんなことを考えていると、真上から声が落ちてきた。
 聞き覚えのある、異国語の混じった喋り方と声。

「……まさ、むね…殿……?」

 意識のはっきりしないまま、幸村は声のした方にゆっくりと顔を向け、言った。

「そうだ。俺だぜ?幸村」

 政宗はそう言うと、まだ頭のはっきりしない幸村の唇に啄むような軽いキスを落とす。

「久しぶりだな、幸村」
「!!!」

 キスをされたことにより、幸村の意識ははっきりと覚醒する。

「まっ…政宗殿っっ!!」

 かばっと起き上がり、慌てふためく。その顔は熟れた林檎のように真っ赤になっていた。

「…い、いつ此方に?」
「さっき?」
「…某、どのくらい寝ておりました?」
「俺が此方に来てから、二刻ほどだな」
「…!!」

 政宗に質問を投げかけ、幸村はその回答にショックを受ける。

「…政宗殿が来られていたのにも関わらず惰眠を貪り、あまつさえ気付かないなどとはっっ!!某は何たることをっっ!!」

 幸村はあまりのショックに頭を掻き毟り、裸足のまま庭に駆け出そうとした。

「幸村、落ち着け!」

 政宗は駆け出そうとする幸村の腕を掴み、自分の方へと引き寄せる。政宗の腕力に勝てる筈もなく、幸村は抵抗する暇もなしに政宗に引き寄せられた。

「しかし、政宗殿!某は…」
「良いんだ。俺が好きで幸村が起きるまで待ってたんだからよ。それに……」

 「幸村の寝顔、cuteだったぜ?」と耳元で囁かれれば、更に幸村の顔が赤くなる。
「まままま…政宗殿っ!!」

 羞恥心に幸村は我慢出来なくなり、政宗の腕の中で暴れ出した。
 しかし、ビクともしない。

「だから幸村、落ち着けって」
「お…落ち着いていられまするかあぁっっ!!」

 顔を真っ赤にしたまま、バタバタと暴れる幸村。こうなることを知っていて、政宗は言ったのだから質が悪い。

(…本当にcuteだぜ、幸村)
「そんなに暴れんな。今日は幸村にpresentを持ってきたんだぜ?」
「ぷりせんつ……お土産のことでございまするか?」

 政宗の言葉に、幸村はピタリと暴れるのを止める。

「That's right」

 政宗はそう言うと、横に置いていた包みを幸村に手渡した。
 幸村は手渡された包みをゆっくりと開封していく。

「わぁ…、京菓子…砂糖菓子ではありませぬか」
「ちょっと慶次の奴に用事があったからな。ついでに買ってきた。幸村、甘いもの好きだろ?」
「はいっ!!大好きにございまする!!」

 幸村は満面の笑みを浮かべ、政宗に言った。

「食ってみろよ」

 政宗も微笑み、幸村にそう言う。

「あ、はい。…それでは、頂きまする」

 幸村は包みの中のひとつを手に取り、口の中へと入れた。
 京菓子の上品な甘さが口の中に広がっていく。甘過ぎず、しつこくもなく、丁度よい甘味…。
 それは、口の中ですぅ、と溶けていった。

「どうだ、旨いか?」

 政宗が幸村に問い掛けてきた。

「美味しいです!上品な甘さで…」
「そりゃ良かった」

 政宗は微笑み、幸村の頭を撫でた。美味しいと言われ、喜ぶ幸村を見て嬉しいようだった。
 また一つ、また一つと、幸村は砂糖菓子を口の中に入れてゆく。口の中ですぅっと溶けてゆく感触は、何やら癖になりそうだ…と幸村は思った。

「本当に美味しいでござる。…政宗殿も一つ如何か?」

 そう言うと、幸村は包みの中の一つを手に取り、政宗の目の前に差し出した。

「ん、俺か?」
「はい!某一人で食べてしまうのは、勿体無い故」
「…勿体無いって。俺は幸村の為に持ってきたんだがな」
「しかし、某。政宗殿と一緒に食べたいでござる」

 幸村に無意識に上目使いで言われれば、政宗が断れる筈はない。

「……しょうがねぇな。甘いのはあんまり好きじゃねぇんだが」

 参ったように頭を掻くと、政宗は幸村の方を見る。

「では…っ!!」

 その政宗の回答に、満面の笑みで、幸村が砂糖菓子を渡そうとした瞬間。
 政宗の唇が幸村の唇を奪っていた。

「!?」

 幸村は驚き、手に持っていた砂糖菓子を床にポロリと落とす。

「ん…っ」

 チュッと音を立て、政宗が幸村の唇を離した。

「……甘いな」
「ま…っ!!」

 幸村はパクパクと口を開閉させ、真っ赤になったまま、政宗を見た。

「甘いのはあんまり好きじゃねぇが、これだったら幾らでもいけそうだな」

 政宗は、にいっと意地悪そうな笑みを浮かべる。

「〜〜っっ!!政宗殿の破廉恥っっ!!」
「くくっ、sorry、sorry」

 またもやジタバタと暴れ出した幸村を、政宗は宥める。
 そして、幸村の手を取ると、今度はペロリと指についた砂糖を舐めた。

「…甘」
「!!」

 そんな政宗の行動に、更に幸村の顔が真っ赤になる。

「……もう、勘弁して下され」

 力無く幸村はそう言うと、耳まで真っ赤になったまま、顔を政宗の胸に埋めた。

「……本当にcuteだ、幸村」

 そう言うと、政宗は幸村をギュッと抱き締めた。

(恥ずかし過ぎるでござる……)

 幸村は、cuteと言う政宗の顔を見ることが出来なくて、抱き締める政宗の服をギュッと強く掴んだ。




ああ、なんて甘い。





(08/06/23)


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