起きたら自分の部屋にいて、頭が少しぐらぐらする。二日酔いはあまりしない方で、気持ち悪くなったり頭痛がしたりということが無いのは、酒飲みの遺伝子に感謝するところだ。
昨日どうしたんだっけ、とりあえず服がそのままだからシャワー浴びなきゃ、と考えを散らかしていたら、横で何かがもぞりと動いて、引きつるような短い悲鳴が口から漏れた。

「ん、あ、おはようございます」

丸まった布団からのんきに出てきたのは、昨日隣で飲んでいた男性だ。自己紹介しあった気もするが、名前は何だっただろうか。

「あ、大きな声出さないでください、言っときますけど何もしてませんから。放さなかったのはあなたです、覚えてますか?」

よほど私の顔は驚いていたのだろう、彼は矢継ぎ早に説明した。気だるそうな顔は相変わらずだが。
どうやら昨日酔い潰れてしまった私は、友人達に体よく面倒を押し付けられた彼によって送り届けられたらしい。その際に彼もろともベッドにダイブして爆睡したという。それは……なんというか、女として、いや人としてどうなのだろうか。

「それはその……ご迷惑をお掛けしまして」
「いや、俺も飲み相手がいて調子に乗ってしまって……酔ってたとはいえ失礼しました」
「私もです、女の子達と飲んでてもそこまで飲めなくて、久々で楽しくなっちゃいました」
「ですよね、ペースの合う人ってなかなかいなくて。名字さんは酒に強いだけじゃなくて話も面白かったし」
「あ……」
「どうかしました?」
「や、あの、すみません。私、あなたのお名前覚えてないんです」

彼が私の名前を口にしたので、さすがに悪い気持ちになった。もともと記憶力が良くないのに、昨日はお酒の力でさらにボーッとしていた。彼は覚えていてくれたのに、と思うと恥ずかしさが込み上げてくる。
しかし彼は特に気にする風もなく、自己紹介をしてくれた。あかあしけいじさん。色の赤いに植物の葦、京都と病の方の治る。珍しいけど古風な感じで素敵だ、と感想を口にすると吹き出された。

「昨日も、同じこと言われました」
「すみません覚えてなくて……でも、本当にそう思ったから」

私たちはその後、そのままなんとなくお喋りを続け、いつのまにかお昼になっていた。突然、ぐるる、とお腹が鳴って恥ずかしい思いをしたのは私だけだった。音が出て、ようやく空腹に気付くくらい話に夢中になっていた。盛大な音は彼にも当然聞こえていて、少し止まった後に食事に誘われた。

「良ければ、食べに行きませんか」
「え、でも……」
「この近くにある美味いカレー屋、知ってます?昼だとナンとライスが食べ放題の」

カレーと聞いて喉が鳴る。着替えたいしシャワー浴びたいし、お化粧だって昨日のままだからどれだけ崩れているか分からない。けれど今、私は赤葦さんとカレーを食べに行きたいということしか考えられなくなった。

「……ちょっと時間ください、すぐ支度するんで」
「どうぞ。ゆっくりで良いですよ」

その後食べに行ったカレー屋さんは、インド人がやっているけれど日本人向けと言える味で、でもやっぱり日本のカレーとも違っていた。ナンがパリパリモチモチなのも高得点だし、サフランライスも適度にパサパサでカレーと良く合う。一言で言えば、大変に気に入った。

「こんなところがあるなんて知らなかった、すごく美味しい」
「こんなに家近いのに?」
「お恥ずかしながら、飲み屋以外はあんまり詳しくなくて……」

そう、家から徒歩5分なのに知らなかったのはもったいない。私は基本的に飲み屋しかチェックしていないが、これからはもう少しご飯屋さんもチェックしようと心に決めた。

「じゃあ今度、その飲み屋を教えてください。俺もまだまだおすすめの飯屋教えるんで」

それってデートかな、と思いつつ、舌の合う貴重な人間を見つけてしまった私には「お願いします」としか言えなかった。


2014/09/03