手を替え品を替え 


それは突然の出来事だった。

私は幼馴染みの京治くんとテスト勉強をしていた。高校は違えど試験期間はほとんど同じということで、母がいつも彼に私の見張り役を頼むからだ。
人がいないと頑張れない自分の性格が分かってるから、特に京治くんがいることに不満はない。勉強は嫌だけど、京治くんがいると母が差し入れに美味しいお菓子をくれるから頑張ろうと思える。

だがしかし、今日の私はいつになくやる気が出なかった。
あんまりにも上の空だったから京治くんがちくりと嫌みを言ってくる。それでもうわずかに残っていたやる気も全てなくなり、ペンを投げ出して体をベッドへダイブさせた。

それもこれも、同じクラスの男の子がこんな時期に、告白、してきたからだ。
彼のことは嫌いではないが好きでもない。けれど告白されるとやっぱり気にしてしまうというか。
もちろん断るつもりだけど、クラスでぎくしゃくしたくないなあと思うと、どう断れば円満に収まるのか考えなければいけない。それも面倒くさい。

そんなことをつらつらと京治くんに愚痴る。
するとどうしたのであろうか、京治くんもベッドに上がってきたではないか。というか、私にまたがってきたではないか。


「だから嫌だったんだ」

「は?」

「そんな奴、彼氏がいるって言って断れよ」

「え、私彼氏いないし嘘良くないっていつも京治くんが」

「彼氏なんて、俺がなればいいだろ」


そう言って、京治くんはあっという間に私のファーストキスを奪っていった。別に好きでファーストキスを取っておいた訳ではないけど、なんだかあまりにも呆気なかった。


「初めてのくせになんで無反応な訳」

「だって……」

「……初めてじゃ、なかった?」

「いや初めてですけども!いきなり過ぎて何が何やら」


それが失言であったと気付いたのはすぐだった。


「じゃあ、もっと忘れられないようなのしてあげる」





ずっとずっと大切にしてきた女の子。それが名前だ。中学までは一緒だったから特に難しいこともなく虫除けができた。でも、とうとう高校で離れてしまい、しかも名前は告白をされたとか言ってきた。
ふざけんな、と。顔も名前も知らない男に渡してなるものかと手を出した。
名前は不安になるくらいガードが甘かった。しかも男がまたがってるのに無反応って。痛い目を見ないと分からないのかもしれない、そう思ってキスをした。一応気を遣って、触れるだけのキス。でもやっぱり無反応で。余裕そうなのがムカついて、手加減なんか忘れた。


「……京治くんて、むっつりだったんだね」


満足するまで名前に触れた後、彼女はぽつりとこぼした。


「別に。男なら皆こうだよ」

「うん……男の子が狼って、身をもって知った気分」

「これからは気を付けて」

「そうする」


そう、本当は俺だって危なかったのだ。名前があんまりにもかわいくて、当たり前だけど女の子で、もっと強い欲望がむくむくと沸き上がってきたのだ。
でもキスまでとはいえ了承もなくあれこれしてしまったのに名前は意外と普通だ。面白くないけど、拒否されなくて良かったと、今更安心する。


「ねえ京治くん」

「何?」

「京治くんて、私のことが好きなの?」

「………」


この子、本当にもう、どうしてくれようか。ここまでして分からないって、勉強云々以前の馬鹿なのではないだろうか。


「どうしてそう思ったの」

「え、だって……京治くん、私の彼氏になるんでしょう。好きじゃないのに彼氏になるなんて、おかしいでしょ?」

「名前は、俺が彼氏で嫌じゃないの?」

「い、今は京治くんの気持ちを聞いてるの!」

「うん、好きだよ」

「あ、うん……」


ストレートに言えば名前は赤くなって目をそらした。ようやく、意識してくれた。
もしかして行動より言葉の方が通じるのだろうか。なら、


「好き、だから、付き合ってほしい」


これからは、言葉で伝えるよ。


2014/08/09