遠近が狂ってしまうわ 


運動ができて頭がよくて顔も良ければ背も高い。そんな完璧な男性がこの世に何人いるだろうか。でも、確かにいるのだ、そんな人が。私も高校に入って初めて知った。正確には、いるだろうなと思いながらも確信は持てず、高校で目の当たりにしてようやく飲み下せたといったところだろうか。
しかし彼は多少性格に難有りで、私は心の中でやっぱりね、と呟いた。そこまで完璧な人間なんていてはいけないのだ。


「ほんっと君って卑屈だよね」

「自覚済みです」

「でも頭の悪い奴よりは好きだよ。己の程度を弁えてる」

「そんな卑屈な人間を構う月島君の気が知れないよ」

「前にも言ったでしょ。君みたいな人は嫌いじゃないって」

「……顔が近いです。女子のやっかみは面倒って前に言ったよね」

「はいはい」


特に悪気もなさそうに、端正な顔がパッと離れる。
月島君は何故か私に話しかけてくることが多い。彼は私について何か勘違いしているようだけれど、私はそんなに話してて面白い人間だろうかと首をかしげる。月島君が言ったように卑屈なところもあるし、彼ほどではないにせよひねくれてる。


「君はさ、ほら。馬鹿正直だし」

「そんなに馬鹿ってとこ大きな声で言わなくていいよ」

「褒めてるんだよ?僕に話しかけてくる女子は、みんな嘘つきだから」


さりげなく自慢しているのだろうか。でも彼はどこか人嫌いなところがあるから、本当に辟易してるだけかもしれない。純粋な好意以外にも色々な感情と思惑を抱いた人たちに囲まれていたのだったら、月島君がこんな風になってしまったのも分かる気がする。


「嘘ついてまで付き合いたいなんて凄い考え方」

「ふうん。まるで僕にはそんな価値ない、とでも言いたげだね?」

「それ邪推」


実際、彼氏をアクセサリーと思っているような人たちには、月島君はダイヤのように輝いて見えることだろう。難有りな性格を引き算したとしても、月島君の見た目と能力は、十分に価値がある。


「ほんと、君くらいだよ。僕に興味を示さないのは」

「そんなことない。私だって月島君のこと魅力的な人だとは思ってるよ」

「ふうん。じゃあ、付き合う?」

「それはちょっと……」


素敵だなーかっこいいなーとは思っても、それで付き合うっていうのは違う気がする。月島君をすごい人だとは思うけど、好きかどうかと言われたら特に何とも思っていない。こんなに近くにいても存在が遠い。そしてそれが、特に寂しいとも思わない。


「手強いね」


でも、諦めないよ。そう言い残して月島君は私の側から離れた。いつも澄まして飄々として、時に冷酷な人に、こんな人間らしいところもあるんだ、と私は素直に感心した。月島君の性格への評価を上方修正する。
ああでも、それではまずい。人間らしい感情を見せることで、逆に人間離れした完璧さが作られるという矛盾に、私は頭を抱えた。私に近づきたいらしい月島君は、そうして私から離れていくんだ。


2014/12/22