君に救われた 女は曲線でなければ女ではない、というのが私の持論。 例えば、脚。太いのはもっての他だけど、細い棒っ切れのような脚ではいけない。 例えば、背中。肩甲骨からお尻まで、綺麗なS字を描くのがいい。 例えば、目元。目が丸く大きいほど良い。睫毛がくりっと上向きならなお良い。 例えば、髪形。毛先を柔らかくウェーブさせれば完璧。スプレーでガチガチに作ったものだと減点。 だから私はこれまで、努力に努力を重ねて、今のスタイルに辿り着き、それを維持している。自己満足を徹底的に追求した結果だ。お菓子を食べながら「太っちゃう〜」なんて言ってるような人に、羨ましがられはすれど妬まれる理由はひとつだって無い。 「名字さんまた告白されたって」 「いいよねー、黙ってても男が寄ってくるんだもの」 「黙ってはいるけどさあ、完全に誘ってるじゃん、アレ」 「ていうか男に媚びてるよね」 「わかる!女友達いないんじゃん?」 「女子と話すときも媚びてる感じあるけどねー。だから?みたいな」 ていうかー、わかるー、だよねー。おんなじ単語をおんなじように繰り返して、甲高い笑い声が木霊する。こんな風に言われているのを聞くのは初めてではないが、金縛りにあったように体が動かなくなる。 私の努力なんてこの人たちは一切知らない。知らせるつもりもない。私が女子からなんとなく浮いてしまうのは仕方の無いことだと思う。最初は憤ったり馴染もうと頑張ってみたりもしたが、いくらやっても体型のような変化は見られなかった。女子は敵を作らなければ団結できないのだ。それが、私なのだ。 逆に考えれば、劣っているものを仲間外れにするよりも、優れているものを仲間外れにする方が、色々と効率的だ。劣っているものへの仲間外れは端から見てすぐに分かるし、人はそれを醜悪だと感じるだろう。しかし優れているものへの仲間外れというのは、難しいものがある。何故なら人よりも良いものを持っているということだから、プラスアルファがあるということだ。友人がいなくとも優れているからプラスマイナスで考えればそれほど惨めでもない。「高嶺の花」だとか「お高く止まっている」などの言葉があるように、優れているものが一人であることに、抵抗が少ないのだろう。 そして私は人より容姿が優れていた。ただそれだけのこと。 「名字?」 声をかけられてビクッとなる。誰かと思えば、隣の席の影山くんだ。 「どうしたんだ、そんなとこ突っ立って」 「別に……影山くんは部活じゃないの?」 「何言ってんだ。今テスト期間だろ」 「あー、そうだったね。忘れ物?」 「おう」 影山くんはさっさと教室へ入る。すると女の子達の笑い声は一気に可愛らしい上品なものになる。彼は頭が悪いしいつも寝てばかりだが、背が高いし顔が良い。それだけでその他の全てのマイナスが帳消しになるのだから、女の子の頭ってほんとに単純。ガタガタと音がして、影山くんはすぐにまた廊下へ出てきた。 「じゃ、またな」 「お勉強頑張ってね」 「そっちもな」 そのまま歩き出した影山くんだったが、またすぐに振り返って私の名前を呼んだ。 「気にすんじゃねーぞ」 「え?」 「なんなら、うちの部活に来い。お前なんかより美人な先輩もいる」 「……聞こえてたの」 「そりゃあんなデケー声、聞こえない方がおかしいだろ」 恥ずかしさで顔が赤くなっていくのが分かる。自分の悪口を聞かれたこともだが、あんな適当な言葉なんかに固まったところを見られてしまったというのが屈辱的だ。しかも、こんな部活馬鹿に気を遣われるなんて。 「……影山くんには分からないよ、女子の難しさは」 「そうだな。でも、名字は別に悪いこと何もしてねーだろ。だから気にすんな」 それだけ言って、彼は歩いていってしまった。影山くんは、普通のことしか言っていない。悪いことしてないなら気にしない。当たり前のことだ。 それなのに、その言葉は私の中で重力を増して深く沈んでいく。私はこのままで良いのだと、許された気がした。 2014/09/14 |