連れてってよワンダーガール 


隣の席の彼女は、いわゆる不思議ちゃんってやつだと思う。なぜなら突拍子もないことを言ってくるからだ。


「ねえねえ!カリントウって知ってる?」

「知ってるけど」

「響きがいいよねえ。私、好きな言葉は?って聞かれたら絶対にカリントウですって答えると思う!」

「かりん糖、好きなの?」

「食べるのは好きじゃない。でも発音が好き」


休み時間になった途端、これだ。コロコロと響く高い声が耳に残る。かりん糖、カリントウ。あまりにも彼女が繰り返すからだんだんとゲシュタルト崩壊を起こしてきた。それでも彼女はお構い無しに繰り返す。


「ねえ、ほら、高瀬くんも言ってみなよ。口が楽しいよ!」

「口が楽しいってなんだよ……」


そう言いながらも彼女の後に続いて発音する。特に口は楽しくならなかったけれど、彼女の嬉しそうな顔に胸の辺りがむずむずした。

またある時はこうだ。


「キジトラってすごいネーミングセンスだよね!初めて聞いたとき、結局どれなの?って思ったよね」

「ああ、まあ、確かに」

「しかもこの間、サバトラっていうのもあるって知ってテンション上がった」

「へえ、俺も初めて聞いた」

「でしょ!サバとか、猫食べちゃうじゃん!」


こんな風に、彼女は唐突に話し出して、しかもそれが全然役に立たないようなものだから反応に困ってしまう。
それでも彼女が楽しそうに「あのね、高瀬くん!」と話しかけてくれるのを待っている俺は、だいぶ女々しいなあと思う。でも、いつも微妙な反応しか返さない俺に、どうしてそんなに話しかけてくれるのだろう。


「あのさ」

「なに?」

「そういうの、友達に話せばいいじゃん」

「え……」


彼女はポカン、とした顔をして、こちらも、ポカン、となってしまう。やばい、言い方を全力で間違えてしまった。


「あ、あー、もしかして、これまでうざかった感じ?」

「ごめん、そうじゃなくて。ほら、俺いつも頷いてるだけっていうか」

「ううん、だって、高瀬くんに話すのが楽しいんだもん!」


ていうか分かってるならもっとリアクションしてよー、なんて彼女は軽く言うが、それどころではない。鈍くしびれるように、先ほどの言葉の余韻が残る。


「俺も、名字と話すの、……好きだよ」


少しの下心を込めてそう言うが、彼女は邪気の無い笑顔で「知ってた!」と言うので、俺の恋はまだまだ実りそうにない。


2014/08/25