今日の綾人はどこかおかしかった。
どこが、と云われると具体的に挙げるのは難しい。なんとなくいつもより神経を尖らせていたというか、何かを気にしていたというか…そんな些細な変化なのだけれど、普段から綾人を見慣れているわたしにとってはかなり大きな変化だ。他の誰でもない、綾人の変化なのだ。だってそれは、夏の雪や冬の桜、それに授業中に当てられても自力で答えられる順平くらいに珍しい。って云うとさすがに順平に悪いかな。

とにもかくも午後、授業が全て終わると同時に綾人はわたしの席に近付いてきて、晩ご飯一緒に食べよう、と云ってきた。綾人から誘ってくることなんて今までになかったから、わたしはぽかんと綾人を見上げただけで何も云わなかったのだけれど、綾人は全く気にする様子もなく、「だから早めに帰ってきなよ」と自分の云いたいことだけ云って踵を返す。

「待って」
わたしは慌てて綾人を呼び止めて、綾人は?と訊ねた。綾人も早く帰ってくるの?話の流れからすると、当然のことなのだけれど、わたしには綾人がこのまま真っ直ぐ寮に戻るとは思えなかったのだ。
入寮してまだ1ヶ月も経たないけれど、綾人が寮で大人しくしているところなんてほとんど見たことがない。(なんて、あまり人のことは云えないんだけど)

「寝ようかと思うんだよね」

あっさりと云った綾人に、わたしはまた言葉を失った。

「何?」

綾人が怪訝そうに云う。

「何って、それはわたしの台詞!綾人が、何?何があるの?」
「えー」

云わなきゃいけない?という感じに彼は顔をしかめる。面倒なんだけど。そう云いたげだ。わたしが怒るのが分かっているから、たぶん口にしないんだろう。

「…今日、満月だから」

ぼそりと綾人は云ったけれど、さっぱり意味が分からないわたしは尚も説明を求める。しかし綾人はそれ以上云う気はないらしく、ひらひらと手を振って教室を出て行ってしまった。







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