お前はあれで良かったのか?
珍しく早く帰ってきた瀬田綾人とラウンジでふたりきりになった時、グローブを弄る手を止めて思わず訊ねていた。不思議そうな顔をして瀬田がイヤホンを外したので、音楽を聴いていて俺の声は届かなかったのではないかと思ったが、「何がですか?」と瀬田が聞き返してきたので少し驚く。

彼はとりあえず、といった感じにソファーに近付く。普段から感じていたことだが、彼はあまりラウンジという空間が好きではないようだった。俺たちは特に理由もなくラウンジで時間を潰すことが多いのに、ラウンジで寛ぐ彼を見たことがない。部屋に戻る為にも外に出る為にも必ずこの場所は通らなくてはいけないから姿は勿論見るし、既にラウンジで寛いでいる彼の妹やクラスメイトが声をかければ足を止めることはある。けれど、彼自身がソファーに座ってゆっくりとしているところは、そういえば見たことがない。

あまり人付き合いが得意じゃないというか…。申し訳なさそうに彼の妹が云っていたのを思い出す。苦手なわけじゃないんですけど。そうも彼女は云っていた。苦手じゃないなら何なんだ?思ったけれど、彼女を困らせても仕方がない。

瀬田は自分から話す気はないらしく、ソファーの側に立ったまま俺の言葉を待っている。仕方なしに「妹の事」と俺が口を開くと、瀬田は「ああ、」と納得したように頷いた。
「心配じゃないのか?」
瀬田のあまりに感心のない口振りに、つい口調を強くしてしまう。

「心配…はしてないですけど、今のところ」
「してないってお前…」
「リーダーって点だけなら、確実に里綾のが適任だと思うってことです」
「…それ以外は?」

訊ねると瀬田は少しだけ口端を持ち上げた。

「大丈夫ですよ」

その自信はどこから来るのか、とか。そんなことを思うより、まず呆気に取られた。一瞬、何について話していたのかすら忘れそうになる。

「里綾なら、大丈夫です」
もう一度、彼ははっきりと云った。

「危なっかしいところがないわけじゃないけど、それはフォローすれば良いことだし、心配してくれる人もいるし」
ね、と彼は笑った。ように見えた。
正確には、笑ったと思った時には既に背を向けてしまった後だったので分からない。ただ彼の「大丈夫」という言葉だけがやけに耳に残った。
大丈夫、俺はその言葉を美紀に云えたことがあるだろうか。美紀なら、大丈夫。

ぽかりと穴が空いた気がした。酸欠みたく苦しいのに、いくら息を吸い込んでも、全然楽にならない。軽く眩暈を覚えて、双眸を閉じた。







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