歌っていたのは、綾人だった。
ラウンジのソファーに腰掛け、足元のコロマルがじいとそれを見上げている。珍しいこともあるものだと、わたしは扉の前に立ったまま首を傾げた。一緒に帰ってきたゆかりと風花も驚いている。

「おかえり」

歌うのを止めた綾人が緩慢な動きでわたしたちを振り返った。コロマルがぴくりと耳を動かし、不満げに躰を地面に付ける。

「順平ならもうすぐ下りてくるよ。天田も部屋。真田先輩と桐条先輩はまだ帰ってきていない」

そう云って綾人は足下のコロマルに手を伸ばした。頭を、そして首の辺りを撫でる綾人に、コロマルは最初迷惑そうな顔をしていたが、次第に気持ち良くなってきたのか、赤い目を閉じ尻尾をゆるく揺らし始めた。

「何だか瀬田君、機嫌良さそうだね」
ゆかりが動揺を隠せない様子で囁く。
「影時間を終わらせられたこと、やっぱり瀬田君も嬉しいのかな」そう云った風花の声は弾んでいた。

(本当に…そうなのかな)

いつになく饒舌な綾人が、むしろ無理をしているように見えてわたしは不安になる。

「ねえ、綾人。アイギスは…一緒じゃないんだね」

わたしが思いついたように訊ねると綾人は少しだけ考える素振りを見せ、「アイギスは…うん、幾月さんと一緒、だと思う」と曖昧に答えた。
何だか気になるな。わたしは理由のない焦燥に目を伏せ、吐きだす直前のため息を飲み込む。







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