珍しく帰り道が明彦と一緒になった。3年間同じ場所に帰っているのに、思い返せば一緒に帰ったことは数える程しかない。なんだか不思議な感じだな。私が云うと明彦も落ち着かないなと苦笑する。
「まあたまにはこんな日もあるか」
白に限りなく近い冬の空を仰いで私は笑った。


「調子はどうだ?」

ふいに明彦が訊ねる。

「どうということもないさ。いつも通り、と云ったところかな」
「お前はフェンシングの試合の直前だって変わらない」
「そんなことはないさ。私だって試合の前は落ち着かないよ」

明彦が何故突然そんなことを訊ねてきたかは分かっている。明日は満月。私たちがずっと目指していた影時間の終焉。その時を前に、明彦は少なからず気持ちが高揚している。お前はどうだ?と訊ねたかったのだろう。
明日でシャドウとの戦いも最後か。私は呟いて、首を傾ける。

「正直、実感が湧かない」
「長すぎたからな」
「ああ。当たり前のように毎晩影時間は訪れて、シャドウの存在もあまりに身近すぎた。今更、一切が消えてなくなると云われても、すぐには受け入れられなさそうだ」

不思議だな、その日の為に全てを犠牲に戦ってきたというのに。私が自嘲気味に呟くと、「仕方がないさ」と明彦は苦笑する。

「俺たちの生活は、それだけ影時間の作り出したものと深く関わりすぎていた」

ぼんやりと無気力に空を仰ぐ何人もの影人間の横を通り過ぎる。明日、私たちが勝利すればこういった光景を見ることもなくなるだろうか。ふと、何故影時間に落ちた人たちは一様に空を見上げているのだろうかと思った。空に何かが現れるのだろうか。空から何か落ちてくるのだろうか。その姿はどこか、餌を待つ池の鯉を思わせた。
考えたところで答は出ない。どちらにせよ、こんな光景を見るのも今日が最後だ。
巖戸台駅前に並ぶ店を眺め、私は思ったことを素直に口にする。

「全て終わったら、ラーメンでも食べに行ってみようか」
「はがくれか。あそこは本当にウマい」

私の呟きに、明彦は嬉しそうに顔を綻ばせてた。







明日、ついに影時間が終わる。






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