夢だったのだろうかと目が覚めてすぐのぼんやりとした頭で考える。夢にしては現実味がありすぎたけれど、仮に夢ではないと云われても、やっぱり納得ができない。
見上げた天井はひたすらに白く、どうやら最近引っ越したばかりの寮の自室ではなさそうだと分かった。そうでなければ、と顔を横に向けるとサイドテーブルに飾られた見慣れぬ花瓶。そこで、おそらく此処は病院なのだろうと理解する。

現状が大体把握できた後、次に思ったのは綾人のことだ。病室に誰か他に人のいる気配はない。わたしひとり、静かなこの空間に横たわっている。そう思うと突然落ち着かない気持ちになった。
躰を起こしてベッドに座る。一般病室より設備が整っているように見えるのは、やはり桐条先輩の用意してくれた病室だからなのだろうか。まだ桐条先輩のことはほとんど知らないけれど、聞くところによると一般の常識からかなりかけ離れた存在らしい。

サイドテーブルの花も先輩が用意してくれたのだろうか。ピンク色のガーベラが、わたしを見守るように顔をこちらに向けている。自然と笑みが零れた。
自分の置かれている状況も分からず、綾人も側にいない、そんな不安を少しだけ和らげてくれた気がする。


「瀬田君、まだ寝てないと…!」

廊下から微かに聞こえてきたのは、岳羽さんの必死な声。その制止をおそらく無視しているのだろう人の足音。本気で心配してくれている人を無下にしちゃ駄目だって。声のする方に顔を向けてわたしは思った。

がらりと扉が開いて、いつもより少しだけ顔色の悪い綾人が病室に一歩入ってくる。わたしの姿を認めると安心したのか小さく息を吐いた。

「あ、起きたね」

綾人の背後からひょっこり顔を出した岳羽さんが安堵の表情を見せる。その顔を見た途端、サイドテーブルのガーベラは岳羽さんが飾ってくれたものなのだと気付いた。そういえば、ピンクのガーベラは岳羽さんのイメージにぴったりだ。
ガーベラを見て安心したのは、ただ花に癒されたからじゃない。無意識だけど岳羽さんの気遣いに触れたから。優しさだって気が付いたから。綾人の存在は勿論だけれど、岳羽さんが居てくれたことに、たぶんわたしはすごく安心している。

「良かったー。ふたりともようやく目を覚ましたね」

本当に嬉しそうに云う岳羽さんを、綾人も穏やかな顔で見ていた。綾人もきっとわたしと同じ気持ちだな、とわたしは察する。
綾人にじっと見られていると気付いた岳羽さんはちょっとだけ慌てた様子で、「ほら、瀬田君は病室に戻る!まだ寝てなきゃダメなんだから!」と綾人の腕を引っ張った。

「瀬田さんも、ちゃんと横になっててよ!瀬田君を病室に帰したら様子見にくるからね!」

抵抗することなく引きずられていく綾人に、わたしは思わず笑う。扉が閉まる前に、困ったように笑う綾人が見えたのだけれど、たぶん岳羽さんは気が付かなかったかな。滅多にないことだから、なんだか少し、もったいない。







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