荒垣先輩が暴力事件に巻き込まれ重傷だというニュースは、試験の開始と共に殆ど忘れられてしまった。
それまで好き勝手に噂していた人たちはみんな、そんな事件なんてまるで存在していなかったような顔をして、別の話題を口にしている。勝手なものだ。けれど少し、ほっとしている。もうあんな悪意で誇張された噂話に怒りを抑えなくてもいい。

わたしたちはみんな、それぞれが何とかいつも通りに過ごそうと必死だった。とりあえずは目前に控えた試験に集中し、ひとりになっては過去を振り返り、その度にこのままじゃいけないと自分を鼓舞し、最後の大型シャドウを思い、毎日を過ごす。やり方が正しいとか正しくないとかは分からない。そうしないと立ち止まって、動けなくなってしまいそうだった。少なくとも、わたしは。
誰かを失う、失いそうになるこの恐怖は、何度経験したって慣れない。絶対に慣れたくもない。


試験も終わりそれなりに落ち着き始めた頃、3学年担当の叶先生が急に学園を辞めるという噂が広まった。
それとほぼ同時に友近くんが目に見えて元気がなくなり、つられるように理緒の表情からも笑顔が消えた。ようやく自宅謹慎が解けて学校に来た沙織に近々転校してしまうと突然訊かされ、ベベも国に帰らなくてはいけなくなるかもしれないと云いだし、森山さんが転校してしまうと知った風花は淋しさを紛らわすように健気に笑っていた。

どれもわたしにはどうしようもないことばかりで、少しも力になれない自分を悔やんだ。完成しそうだった積み木がふいの事故でバラバラと散ってしまったのに似ている。或いは、完成しそうだと思っていたのが間違いだったのか。

見えていたものが急に見えなくなってしまった気がする。どうにかしたいけれど、どこから手を付けたら良いか分からない。どこに触れても、そこから破綻してしまう虞もあった。
わたしはただそれらを静観し、危惧することしかできない。

それでも無理にでも笑い、平気な顔をしていたのは、歯車の狂い始めた周囲を見ないようにする為だったのかもしれない。
そのせいで、一番大切なものを見落とすともわたしは知らずに。






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