リードを手にした瀬田綾人がラウンジに現れると、コロマルとアイギスが同時に顔を上げた。私はティーカップを持ち上げ、ちらりと腕時計に視線を落とす。そうか、もうそんな時間か、と少し冷めてしまった紅茶に口を付けた。

「綾人さん、コロマルさんの散歩ですね」
「うん」

コロマルの頭を撫でながら「ごめんな」と呟き、瀬田は首輪にリードを装着する。その横にアイギスはしゃがみ込み、コロマルの眸を覗き込んでいた。

「不自由、でありますね」
「コロマルが云った?」
「いいえ。コロマルさんは仕方ないとおっしゃっています」
「体裁、だからね」

よし行こうか、と立ち上がった瀬田に合わせ、コロマルも躰を起こす。その様子をアイギスは黙って見つめていたが、やはり我慢できなかったらしい。勢いよく立ち上がると「美鶴さん」と私を振り返った。
「何だ?」要件は分かっているのに、白々しく問い返す。

「コロマルさんの散歩、わたしも付いていってもよろしいでしょうか?」

瀬田を見ると、別にどちらでも構わないといった顔をしていた。私としても、アイギスにはもう少し世界を見て欲しいと考えている。今は良いけれど、今後突発的なことが起きてアイギスを人のいるところに出す機会がないとは云いきれない。まだかなり心配な点が多いが、夜の散歩なら滅多に人に会わないだろうし、もし会ったとしても闇に紛れて誤魔化すことができる。それに瀬田が同行してくれるならこれ以上の好条件はない。
何故だかアイギスは瀬田兄妹の側にいたがった。殊更、兄の方には固執しているように感じたが兄妹に訊ねても心当たりはないらしい。だが、その彼の云うことならば、アイギスも素直に聞くだろう。


「アイギス、散歩付いてくの?」

天田と並んでテレビを食い入るように見ていた瀬田里綾が視線を上げる。
「だったら、その恰好のままじゃダメだよね」

「そうでしょうか」と首を傾げるアイギスに、「そりゃそーでしょ」と岳羽が雑誌から顔を上げ、呆れた風に云った。「いつものワンピースはどうしたんです?」コーヒーカップを両手で包んだ天田が訊ねる。「あ、洗っちゃってまだ乾いてないの」答えたのは山岸だ。
つまり総合すると、アイギスのワンピースは洗ってしまって代わりがないから今日は外には出られない、ということだな。私が云うと、アイギスは黙って俯いた。

「えっ、誰か服貸してやればいいんでないの?」

キッチン前のテーブル席に座っていた伊織が至極当たり前のことのように云う。

「まあ、確かにそういうことだな」

同じく、遠い位置から明彦が同意した。

「身長的にはゆかりッチじゃね?」
「え、私?まあ…別にいいけどさ」
「私の服じゃ…ちょっと小さいよね…」
「いいよ風花。何か良さそうなの持ってくるね」

「あ!」

腰を浮かしかけた岳羽を遮るように瀬田里綾が勢いよく立ち上がる。

「わたし、アイギスにぴったりの服持ってたんだった!」

ちょっと待っててね、と階段を駆け上っていく妹の背中を眺める瀬田の表情が僅かに曇った。珍しく動揺しているらしい。
興味深げにそれを横目で眺めながら私はカップに残った紅茶を飲み干した。







(じゃーん!アイギス用メイド服ー、です)
(バカじゃないの?)
(てかバカじゃないの?)
(うわ、どこかで聞いた台詞だな)
(ちょっと…兄妹して真似しないでよ)

(ふふふ)
(…美鶴さん、楽しそうですね)







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