白河通りに出現した大型シャドウを倒してから数日、ゆかりちゃんと桐条先輩は一度衝突してからお互いを避けるように部屋に籠もってしまっていた。順平君もなんだかいつも苛々として、特に里綾ちゃんとは話そうともしないらしい。
大型シャドウ出現の条件を見つけ、意気揚々としていた寮内の雰囲気は一変。満月の日を境に、目に見えて悪くなっていた。

いつも賑やかだったラウンジが今はひっそりとしてとても広く感じる。ひとりでいることには慣れていると思っていたのに、どうしてだろう。ノートパソコンが起動するのをじっと待つ、その静寂がひどく寂しい。部屋に響く起動音が、まるで私自身の軋みのようだ。泣き声にも、叫びにも聞こえる。たぶん、それも全て、私の声。
何をしたらいいのかは分かっているのに、その一歩が踏み出せない。寮内の雰囲気が悪くなった原因に私も少なからず関わっているというのに、その事実から逃げようとしている。誰かが何とかしてくれるって、待つだけの自分が情けなくて、悔しくて、なのに、やっぱり何も出来ない。

そんな私に、里綾ちゃんはいつだって「大丈夫だよ」と笑ってくれた。「大丈夫だよ、風花。全部上手くいくよ」
その笑顔が時々ひどく痛々しくて、本当は無理をして笑っているんじゃないかって心配でたまらなくなる。本当は今にも泣き出しそうなのに、必死に隠しているんじゃないかって、彼女自身はそんな素振りをみせたりはしないけれど、なんとなく気付いてしまった。

里綾ちゃんがいつもみんなのことを第一に考えてくれるのは、きっと彼女がリーダーだからってだけじゃない。ただ、放っておけないのだ。今の状況を、こんな風にバラバラになってしまった私たちのことを、たぶん誰よりも心配して、心を痛めている。
だから里綾ちゃんは順平くんを見かけると今まで通りに自分から声をかけに行くし、なかなか顔を見せてくれなくなったゆかりちゃんや桐条先輩の部屋を訪ねたりしているんだと思う。拒否される恐怖が先立つ私には、とても真似できない。

せめて私にできることは何だろうと考えて、部活や同好会に出ない日はなるべく早く帰ってきてみんなをラウンジで迎えることにしようと決めた。部屋に戻るにはどうしたってラウンジを通らなくてはいけないから、ラウンジで待っていれば必ずみんなに会える。って、これは里綾ちゃんが云っていたことなのだけれど。でもきっと忙しい里綾ちゃんよりも私の方が適任だからやらせて欲しいと、私からお願いしたのだ。
何よりもラウンジにいれば里綾ちゃんの側にいられる。私は、ただ彼女を見守ることしかできないけれど、これ以上、里綾ちゃんに無理をして欲しくはなかった。


最近瀬田君をラウンジで見かける機会が多いな。と気が付いたのは、今日の帰り道。
写真部の活動の後、いつもならそのままひとりでどこかに行ってしまう瀬田君と帰り道が一緒になった。同じ場所に帰るのだから当たり前なのだけれど、今までにこんな風に帰ることなんてなかったから、違和感に気付くのが遅れてしまった。そのままラウンジで文庫本を広げた瀬田君はとても自然で、あたかも普段からこうやって読書してますって風にも見える。けれど、彼が里綾ちゃんを心配しているのは明らかだ。

いつもと変わらない様子でラウンジに残った真田先輩も、やっぱり私たちと同じ気持ちなのかな。
意識的にしていることなのかどうかは、真田先輩のことだから分からないのだけれど、いつもはどちらかと云えば聞き役の真田先輩が自分から里綾ちゃんに話しかけているのはちょっと意外だった。
何を話しているのかと聞き耳を立ててみると、本当に他愛ないこと。今日の学校の出来事や通学途中に見たもの、誰かの話していた噂話。あれ、真田先輩ってこんな風に話す人だったっけ。不思議に思ったけれど、里綾ちゃんはそれをただ黙って聞いている。時々、里綾ちゃんが嬉しそうに笑うのを私は何度か見てしまった。
里綾ちゃんがそうやって笑ってくれると私も嬉しいし、たぶん、瀬田君や真田先輩も嬉しいんだろうな。だから、里綾ちゃんの為に何かしようって、思うんだよね。

里綾ちゃんって不思議。里綾ちゃんの為なら何だってしてあげたいって思うし、彼女にはいつも笑っていて欲しいって願ってしまう。たぶんそれは里綾ちゃんがいつでも一生懸命で、いつだって私たちのことを考えてくれているからなのだろう。
私は特別課外活動部のリーダーが里綾ちゃんだと聞いた当初、彼女よりもっと適任者がいるのではないかと思ったのだけど、今ならはっきりと云える。

私たちのリーダーは、里綾ちゃんじゃなきゃ、ダメなんだ。







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