前回の風花救出作戦の時に、大型シャドウの出現条件は満月の日なのではないか。という仮定が立った。それからは夜、なんとなく空を見上げることが多くなった気がする。別にわざわざ見上げなくたって月の満ち欠けは決まっていて、手帳でも見ればいつが満月かなんてすぐ分かるのに。

そういえば、綾人は前からぼんやりと夜空を見上げていることが多かったんじゃないか、と気付いたのはつい最近だ。
帰りが遅くなったその日、寮の前でぼんやりと月を眺めている綾人に会った。綾人も帰宅途中だったのだろう、学校で別れた時と同じ格好で、ぼんやりと空を見上げていた。何か、たとえば未確認飛行物体的な何かがあるのかとオレも綾人の視線の先に目を向けてみるけれど、見慣れた夜空が広がっているばかりで何も珍しいものはない。一日だって同じ空は存在しない、なんて云うけれどオレには同じに見えるんだから仕方ない。そんなに繊細にできちゃいないんだって、云われなくてもオレが一番分かっている。
綾人はオレに気付くと、少しだけ驚いた顔をした。どうしたのかと不思議に思って口を動かそうとした途端、痛みが走る。ああ、そうだ。放課後のことを思い出し、頬に手を当てると、ずきりと痛んだ。

「喧嘩?」

よくこの暗い中で気付いたよなとオレは苦笑する。頼りない街灯の明かりくらいじゃ、普通は気が付かない。

「ちげーよ」
オレが云うと、綾人は「ふうん」と興味なさげに視線を逸らした。オレが何故殴られるような事態になったか、里綾にはすぐにバレてしまったけれど、たぶん綾人は事情を知らないはずだから正直助かった。詳しく訊かれても全てはどのみち教えてやれない。綾人には知られたくない、というのが里綾の希望でもあったから。

ふと、綾人の感じがいつもと違うな、と感じたのはその時で、何が違うのだろうと綾人を覗き込んでみる。鬱陶しそうな表情をされたけれど、なんだか慣れてしまったらしく今更気にならない。

「あ、」

オレが呟くと、綾人はますます嫌そうな顔をした。
「お前、前髪止めてるとやっぱり里綾に似てるな」
なるほど、とオレは新たな発見に嬉しくなった。似ていると云われるのが嫌で、前髪で顔を隠しているのかもしれない、とも思う。

「双子なんだから、少しは似るよ」
「少しっていうか…」

云いかけた言葉は、綾人の睨みの前に掻き消えた。

苦笑を浮かべて、なんとなくまた空に視線を向ける。相変わらず空には月が浮かんでいて、しかも数日前に見たより円に近付いていた。次の満月は7月7日。七夕スペシャルマッチだと真田さんは云っていたっけ。今度こそ、とオレは無意識に両手を握る。
綾人がふ、と笑ったような気がした。え?と綾人を見る。

「ありがとう」

そう聞こえた気がしたけれど、聞き間違いだったのだろうか。綾人はいつもと変わらない気怠げな表情で、寮の扉を開く。寮内からの明かりが暗闇を照らし、中からゆかりッチと風花の声が聞こえてきた。オレはぼんやりと綾人の姿が寮内に消えていくのを眺めながら、まさか、と考えていた。
まさか、里綾の写真が出回ってたこと、それをオレが何とかしようと奔走してたこと、アイツは全部知ってたのかな。

(いや、まさかなあ…)

痛む頬に無意識に手を当てて、オレはもう一度空を見上げる。







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