「最近、西脇が変なんだよね…」

昼休み、F組に遊びに来ていた理緒が、ぼそりと云った。
西脇さん、というのは部活に時々顔を出す、あの元気な女の子だな、とぼんやり顔を思い浮かべる。綾人のとこのマネージャーさんなんだっけ。

「あー俺も思う」

同意したのは宮本くんだ。意外。宮本くんって、天然っていうか鈍いっていうか、他人の変化になんてこれっぽっちも気付かなそうなのに。西脇さんとは付き合いが長いみたいだから分かるのかな。わたしが綾人のことなら大概分かるように。理緒が友近くんのことなら大抵知っているように。

「最近の西脇って、なんかぼーっとしてるっていうか…」
「そいで突然ニヤニヤしたりとか」
「かと思えば、物凄く落ちてたりとか」

一通り云い合ってみたら、どうやら理緒と宮本くんの気になる点はぴったり一致したらしい。「だよね!」「だよな!」と顔を見合わせて同時に大きく頷いた。

「あのさあ」

ため息を吐き、呆れたように友近くんがふたりの間に割って入る。

「分かんねえの?君たち」
「何が?」

きょとんとした表情で訊ねる理緒にまたため息を吐き、友近くんは「瀬田さんは分かるよね」と振ってきた。え、里綾は分かるの?という理緒の視線がなんだか痛い。

「まあ…、友近くんの云いたいことなら分かる、かな」

云いにくいなあと思いながらぼそぼそと云うと、友近くんはさすが瀬田さん!と嬉しそうに笑う。それを見た理緒がなんとなく面白くなさそうな顔をしたのを見て、わたしは苦笑した。

「それで、何なんだよ?」

全く見当のつかないらしい宮本くんは焦れったそうに友近くんを見る。やれやれ、と優越感とも同情とも取れる表情で友近くんは首を傾け、「そりゃあ君たち、恋ですよ」と云った。
あー云っちゃうんだ、とわたしは友近くんを見る。わたしは西脇さんとはさほど仲良くないけれど、本人のいないところでそんな話をするのはやっぱりちょっと悪い気がする。本当に西脇さんが恋をしているのならきっと理緒には話をするだろうし、その時理緒が別の誰かから聞いて知っていたっていうのは、なんだかつまらないっていうか。理緒が自分で気付いたのなら、話は別だけど。

「恋?」

しかし、当の理緒はその言葉の意味を知らないみたいにきょとんとしている。宮本くんも同様みたいだ。

「西脇が…?」

そして黙ってしまったふたりを呆れたように眺めていた友近くんが、わたしにそっと「ガキだよなあ」と耳打ちしてきた。わたしも悪いとは思いつつも苦笑せずにはいられない。

「でも!だって西脇だよ?!」


「私がどうかした?」

古今東西、噂をすればなんとやら。教室を覗き込む西脇さんの姿に気付いていたわたしは別段驚きもしなかったのだけど、背を向けていたふたり、理緒と宮本くんはそれはもう飛び上がらんばかりに驚いた。わたしの横にいた友近くんも少しは驚いているように見えたけれど、彼は西脇さんの登場に驚いたというより、派手に驚いた理緒と宮本くんに驚いたという感じだ。つまり、彼も西脇さんに気付いてて、あえて云わなかったらしい。意地が悪いんだな。お互い様だけど。

「ね、私がどうかしたわけ?」
「う、ううん!何も、ないよ!何もない!ね?」

明らかに動揺している理緒が宮本くんに話を振るけれど、宮本くんはただただ首を振ることしかできない。当然訝しそうに西脇さんはふたりを見ている。このまま放っておいてもいいかなと思ったけれど、見るからに困り切っている彼らがさすがに可哀想になった。

「西脇さんはどうしたの?」

わたしが間に入ると、理緒と宮本くんは揃って泣きそうな顔で縋るようにわたしを見てくる。
「誰か、探しに来た?」
怯える小動物みたいなふたりから視線を逸らして、西脇さんはちょっとだけ困ったような表情になった。

「うん、まあね…」

云いにくそうに顔をしかめ、昼休みで騒がしい教室内をぐるりと見渡す。

「…いないみたい」
「そうなんだ。伝言、あれば聞いておくけど」
「え…っと、あー…うん」

云い淀む西脇さんに、さっきまで完全に逃げ腰だった理緒と宮本くんが顔を見合わせた。そして興味津々といった様子で、少し離れたところから様子を伺っている。

「西脇さんが探しに来たのって、瀬田?」
「え?!」

あ、友近くんすごい。これは当たりだなと思った。彼はもしかしたら大抵のことは知っているのかもしれないな、とわたしは関心する。もちろん、理緒の気持ちを除く。だけれど。

「瀬田?」
不思議そうに宮本くんが首を傾げた。
「瀬田に用があるなら聞いとくぜ?」
「や、別にいいよ。大した用じゃないし…」

慌てて両手をぶんぶんと振る西脇さんに、しかし宮本くんは動じる様子もない。というか気にしてもいない。

「あれ、でも瀬田ってどこ行ったんだっけ?生徒会長さんに呼ばれたんだっけ?」
「え、私さっき山岸さんと一緒にいるとこ見たよ」

「ばっか…お前ら…」

深々とため息を吐いた友近くんに、わたしは乾いた笑い声を上げた。








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