私のペルソナはイオ。順平はヘルメス、瀬田君はオルフェウス、里綾は…分からない。里綾は複数のペルソナを持っていて、自由自在に操れるらしい。先輩たちも見たことのない、前例のないケースだと云っていた。つまり、特別。そんなわけで彼女が私たちのリーダーを任されている。

私は、里綾なら話しやすいし、信頼できるし、適任だって思っているのだけど順平は自分がリーダーをやりたがったし、お兄さんである瀬田君的にはどうなのかなあって思ったりもする。やっぱり心配だったりするんだろうか。彼は順平みたいに自分がリーダーをやりたいって感じではないけれど、妹がリーダーだなんて立場ないって思ったりするのかな。

瀬田君のことはよく分からない。普段から他人に興味なさそうで話しかけてもほとんど良い反応は返ってこないのに、時々すごく優しかったりする。気まぐれっていうより、ついって感じがするのは気のせいなのだろうか。つい、手を差し出しちゃった。みたいな。
あの日、突然タルタロスの外に現れたシャドウが寮を襲ってきたあの日、朦朧とする意識の中で見たのは、瀬田君の背中だった気がする。存在しない時間の中でひとり、あの場の現実だった。里綾に訊いてみたけれど、彼女も気を失っていたらしく、何も知らないのだそうだ。瀬田君本人に訊いても、「よく覚えてない」なんて云われてしまうし。その顔、絶対覚えてるでしょ。思ったけれど、なんとなく面と向かって云えなかった。
そういえば、結局モノレールを止めたのも彼だったらしい。止めなきゃ、と運転室に飛び込んだものの、何をどうしていいか分からずパニックになりかけた里綾の後ろからやってきて、止めてくれたのだとか。瀬田君ってそんな雰囲気全く見せないのに実は運動神経すごくいいし、試験結果だって(里綾の情報が正しければ、全然試験勉強していないのに)学年トップだし。
彼のことは、本当によく分からない。



『ゆかりちゃん、危ない!』
「岳羽!」

「え」

風花の警告とほぼ同時に強く腕を引かれ、尻餅をついた。何が起こったのか理解できない私の目の前でシャドウが消失する。視線を上げると、瀬田君のオルフェウスが闇に溶けるところだった。

「ゆかり!」

里綾が慌てて駆け寄ってくる。

「大丈夫だった?綾人、もっと優しくしてあげてよ」
「余裕があればね」
「綾人!」
「里綾、大丈夫。ボーッとしてた私が悪いんだし」

強くお尻を打ってかなり痛かったけれど、顔に出したらまた里綾が心配するだろうから無理やりにでも笑ってみせた。ゆかりが大丈夫って云うなら、と里綾は渋々ながらも納得してくれる。

「ホント大丈夫だから。瀬田君もごめん。ありがと」

いつもと変わらない眠そうな表情で軽く頷き、召喚器をホルダーにしまう瀬田君に「ところで、」と立ち上がりながらわたしは疑問を口にする。
「瀬田君のペルソナって、電撃苦手じゃなかった?」
私のイオとお揃いなんだなあって思ったから、間違いない。けれど、以前、瀬田君は電撃の攻撃を受けたはずなのに、特にダメージがなかったように見えたのが不思議でたまらなかったのだ。

「え?」

少し、間が開く。驚いているようだ。里綾がじっと瀬田君を見ているのが分かった。もしかしたら里綾も気になっていたのかもしれない。
瀬田君は思案するように視線を彷徨わせ、「耐性、付いたみたい」とぽつりと云った。
「成長、したのかな」
うんうんと頷いて、彼は私たちに背を向ける。「順平の様子見てくる。放っておくとひとりで突っ走るし」

あれ、瀬田君がこんな風にあからさまに他人を気にかけている姿を見るのは初めてかもしれない。と私は気付く。これはますます怪しいなと里綾を見ると、やはり真剣な表情で瀬田君の背中を見つめていた。


「綾人、もしかしたらわたしと同じなのかも」

里綾が重い口調で云う。

「え?何?」

里綾が顎をひくと、私よりも少し背が低いので表情が見えなくなってしまう。

「ペルソナ…」呟いた彼女の声はひどく沈んでいた。その理由は私には分からない。

「綾人も本当は複数のペルソナを持っている…のかも」







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