まあここに座りなさいとオレがソファーを叩くと、綾人は若干嫌そうな顔をしたものの素直にオレの横に腰を下ろした。向かいには相変わらずプロテインを並べて牛丼をかき込んでいる真田さん。何事かと視線を上げはしたが、箸を止める気はないらしい。なんでコレでファンクラブができるほど女子に人気なんだろうとオレは首を捻らずにはいられない。

「それで、何?」

綾人が珍しく不機嫌を露わに云う。あー眠いんだなーと最近ちょっとだけ綾人のことが分かってきたオレは思った。里綾が云うには、こうやって綾人が表情を出すのはオレに慣れてきた証拠らしいのだが、今のところあまり好意的な反応はもらってない。まあそれは別にいいんだけど。

「えーそれでは人数が揃ったところで始めさせていただきまーす…ってコラコラ!綾人、どこ行く気だよお前!」
「眠いから戻る」
「バカー!今始まったとこ!ってか今始めたところだからー!」
「物凄く興味ないんで、勝手にどうぞ」
「おまっ…ヒドイ!そういうことは思ってても云っちゃダメ!」
「あー、そう」
「綾人ー!」

「…で?何を始めるんだ?」

「は?」

突然割り込んできた場違いな発言に、オレと綾人は同時に真田さんを見る。当の真田さんは、「何か始めるのだろう?」と不思議そうな顔をしていた。いつの間にか食事も終わっていたらしい。

「えーっと、…ハイ!じゃあ始めまーす」
もういいや。逃げられないように綾人の服を掴み、居住まいを正す。綾人も真田さんの空気詠み人知らずな発言には突っ込む気はないのか黙っていた。さすが真田さんだ。

「あのですね!我らが特別課外活動部にも風花が加入して、ただでさえレベルの高かった女子メンバーに死角なしッ!って感じになったじゃないっすか!」
「はあ」

それがどうした?と真田さんは怪訝な顔をする。綾人にいたっては、もう勝手にしてくれと云わんばかりに視線を遠くに向けていた。
もーなんでコイツらこんなにノリが悪いかなあ!一般男子高校生の反応としてコレはどうなの?!これなら、里綾の方がよっぽどノッてきてくれるなあ…と優しいリーダーを思い浮かべた。まあそう嘆いていても仕方ない。

「だから、つまり!個人的に誰がいいかって、コトデスヨ!」
「いいって…好みってことか?」
「ハイ、じゃあ真田さんからー」

どうぞ、と掌を向けると真田さんは端正な顔をしかめて「バカバカしい」とため息を吐いた。

「誰がいいとか悪いとか、ないだろ。別に」
「本当に?」
「ない」
「綾人は?」
「俺、最初から選択肢ひとつ少ないんだけど」
「贅沢云わない!」
「誰かを選ぶ方がよっぽど贅沢なんじゃない?」
「え…?」

それもそうかな、なんて納得しそうになる。けど、あれ、それってなんかおかしくないか?

「選ばない気かお前…」
ぼそりと呟いたオレに、綾人は「何のこと?」と惚けた。なるほど、コイツは確かに里綾の云う通りの危険人物だ。

「そういう順平はどうなんだ?」

ふと思い出したように真田さんが云った。はい?とオレは思わず聞き返す。顔を上げると、真田さんが意外にも真剣な表情をしていたので驚いた。どう、ってさっきの話の続きだよなあ。突然何、この食いつき。困惑しているオレの横で、綾人も興味ありげに真田さんを見つめていた。

「オレ…っスか?ええー、そう云われてもなあ…」

カワイイと思うけど、ゆかりッチみたいな気の強いのはあまり…だし、桐条先輩みたいなお姉様系もちょっと違う。風花みたいないかにも守ってあげたいって感じが一番好みといえば好みなわけだけれど、風花はまたなんか違うような…うまく云えないけど。里綾…はどうなんだろ。好み…とかではないような気がするなあ。

「順平、長い」
「考えてたんだよ!お前とは違って真剣にサ」
「それで?」
「…わかんね」

結局それか、と綾人が呆れる。まあ確かに人に振っといて自分の回答がこの程度じゃ呆れられるのも当然だよな。

「そういえば順平、お前…」

オレと綾人のやりとりを黙って聞いていた真田さんが歯切れ悪くそう云って、また口を閉じた。何スカ?訊ねてみたけれど、真田さんは顔をしかめたままそれ以上何も云わない。
オレに何か訊きたいことがあったんだろうか?なんだろう?どちらにせよ、真田さんが何も云ってくれないんじゃ答えようがない。隣に座る綾人だけが何か思い至ることがあったらしく、意外そうな顔をしていた。





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