桐条先輩に頼まれて生徒会に顔を出すようになって数週間。運動部にも委員会にも同好会にも籍を置いているわたしは、週に3回の集まりにすらなかなか参加できない。
本当にこんなのでいいのかな。なんだか居心地の悪い気もするけれど、それでも助かる、なんて桐条先輩が云ってくれるから、まあいいか。なんて。他の生徒会のみんなも、わたしを厄介者扱いしたりもせず、むしろ温かく迎えてくれたりするからつい甘えてしまっていたり。わたしの出来ることなんて、そんなにないのに。
そもそも生徒会室に出入りしている人たちは全校生徒に選ばれた、いわば生徒代表の人たちなわけであって、桐条先輩にちょっと手を貸してほしいと云われてやってきたわたしとは根本から違う。そんなわたしがひょこんと現れて、お手伝いします。なんて厚かましい気もするんだけど。

でも誰かの役に立てるって、ちょっといいよね。綾人に云うと、「里綾はそればっかりだ」と呆れ顔をされてしまった。「そうやって何でも引き受けて、応えて、頑張りすぎなんだよ、里綾は」私の性格なんてとっくに知り尽くして、何を云ったって仕方ないと分かっているくせに、綾人は時々そんな風に忠告をする。それだけ心配されているのだと、綾人の性格を知り尽くしてるわたしには分かっている。
「綾人の分も、きっとわたしが頑張ってるんだよね」
わたしがそう云うと、「じゃあ俺は頑張らなくていいよね」と綾人は口端を持ち上げた。


放課後、今日は部活も委員会もないし、定例会の資料をまとめているという小田桐くんを手伝おうかな、なんて思いながら廊下を歩いていると、生徒会室のある方向から聞き慣れた声がした。
片方が綾人だということはすぐに分かったけれど、その相手が分からない。聞いたことのある声だとは思うけれど、誰だったろう?話している内容が、聞かない方がいいようなことならこのまま立ち去ろうと思ったけれど、どうやらただの世間話のようだ。それなら目的の生徒会室のある方向だしと近付いてみると相手は生徒会会計の1年生、伏見千尋ちゃんだった。
驚いて、「え?」と思わず声を上げる。「え?」と千尋ちゃんも声を出して、そしてわたしの存在に気が付くと顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「里綾、」咎めるように綾人がわたしを呼ぶから、思わず謝ってしまう。ごめんなさい。って、だってわたしもびっくりしたんだよ。

千尋ちゃんは極度の男性恐怖症だとかで、生徒会にいる時も男の子とは距離を置いていたし、まして話しかけるなんて余程のことがない限りなかった。その千尋ちゃんが綾人と普通に(若干千尋ちゃんが緊張している感じはあったけれど)話をしているなんて、一体綾人はどんな魔法を使ったのだろう、とか。

「えーっと…あの、瀬田さ…あ、おふたりとも瀬田さん…ですね…あの…」
「千尋ちゃん、気を付けてね。綾人、天然タラシだから」
「え?あ、はい…ええ?」
「里綾、そういう適当なことは云わない」
「だって本当でしょ。放っておくと綾人の周りは修羅場が起こるんだから」
「人をなんだと…」
「だから天然タラシ」
「あの、おふたりとも…」

千尋ちゃんが本当に困った顔で立ち尽くしているものだから、なんだか気の毒になって、千尋ちゃんに向かって微笑みかけた。また真っ赤になった千尋ちゃんに、「ごめんね」と声を掛ける。どちらにせよ、綾人が千尋ちゃんの男性恐怖症を治すきっかけになるのなら、そんなに良いことはないのだ。綾人が簡単に女の子に手を出すような人間じゃないことは、わたしがよく知っている。綾人が一体どうして千尋ちゃんと知り合って、こうやって話ができるまでになったのかはとても興味があったけれど、それは今夜にでも訊きに行けばいいかなと思った。


「じゃあね。わたし、小田桐くんを手伝うんだった」

彼らの横を過ぎ、生徒会室に入ろうとしたところで綾人がぽつりと「里綾だって人のこと云えないよ」と呟いたのをわたしは知らない。







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