瀬田里綾の振り下ろした薙刀が弾かれ、刃の先が砕けた。「痛ッ」という小さな声に血の気が引く。

「瀬田!」

何が起こったのか分からない様子でその場に座り込んでしまった今の彼女はあまりに無防備だった。しかしシャドウの攻勢が激しく、誰も彼女に近寄れそうにない。目の前の敵は電撃を得意としているらしく、同じように電撃が得意なポリデュークスにとっては非常に厄介な相手だった。物理反射を持っているから下手に手を出すな、と美鶴の鋭い警告が届く。

そうこうしている間にもシャドウは座り込んだまま動けない瀬田に攻撃の焦点を合わせていた。シャドウの音のない叫びが空気を震わせる。岳羽が遠くから弓を構えたが、照準が合わないらしく弓を大きくしならせながらも動けない。もう迷っている暇はない。反射されない確率を期待して、拳をシャドウに打ち込んだ。僅かに怯んだその隙に躰を反転させる。地面を蹴って駆け出すが、やはり間に合わない。
「里綾!」
岳羽の叫びが雷撃にかき消された。



「オルフェウス」

まただ。と思った。
また、彼は召喚器を使わなかった。

瀬田里綾を庇うように立ち塞がった彼女の兄のペルソナは、何事もなかったかのようにゆっくりと竪琴を構えた。まるでその竪琴を奏でるかの如く優雅な動きに彼の目的を見失いそうになるが、次の瞬間にはシャドウが炎に包まれる。その火が消える頃にはシャドウの姿がすっかりと消え去っていた。

寮の屋上で彼が初めてペルソナを呼び出した時も、召喚器を使用しなかった。理屈的には、召喚器を使わなくてもペルソナを呼び出すことは可能らしいが、召喚に不慣れな、ましてあんな不安定な状態で召喚器を使わずペルソナを呼び出すなんて無謀すぎる。というか何故彼には呼び出せたのか、美鶴もひどく不思議がった。
瀬田綾人に云わせると、無我夢中で何がどうなったかさっぱり分からないと云うことだったが、あれだけ冷静にペルソナとシャドウの戦いを静観して何が無我夢中だ、と思う。

「里綾、立てるな?」
剣を持ち直しながら彼が訊ねる。「大丈夫」としっかりした口調で答えた妹を視界の隅に捉えて、彼は小さく頷いた。そして、こちらの様子を伺うようにしてじりじりと近付いてくるシャドウたちをぐるりと見渡す。瀬田里綾が割れた薙刀を置いたまま立ち上がった。召喚器を右手に持つ。

「岳羽、里綾よろしく」
「わかった」

岳羽がイオを呼び出して瀬田里綾の傷を癒やした。ぱっくりと割れていた腕の傷が跡形もなく消える。


「真田先輩、いけますよね?」

背中越しに訊かれ、今更何を云うんだと鼻で笑ってやった。

「当たり前だ」


初めから答えは分かっていたらしい瀬田綾人は満足げに頷く。そして、「じゃ、そういうことで」と短く云って地面を蹴った。







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