ZINNIA



風が窓を叩く音が、時計の針が進む音が、まるで耳鳴りのように響いていた。

「もう、終わりにしよう」

元就の指がゆっくりと引き金に触れる。
彼が指に力を入れれば銃口から弾が発射され、そしてそれは目の前に立つ政宗に当たるのだ―そこまで考えてようやく、元親は現状を理解した。突然、如何してこのような状況になってしまったのかは分からない。しかし呆気にとられて成り行きを見守っていたのでは、間違いなく、最悪の事態だ。

「何してんだ、元就ッ?!」

深くは考えていなかった。当然そうするべきだと躰が先に動いた。政宗に代わって、元親が元就に銃口を突きつけられる形となって初めて状況を理解する。
ぞくり、と背筋が寒くなった。
背筋だけではない、全身から血が抜けていくような感覚。出来れば逃げてしまいたいのに、足は動かない。政宗と元就の間に立って、元就と向かい合っている。なのに、元就と視線は合わない。彼の視界には元親など入っていない。もしかしたら元親ごと、撃つ気なのかもしれない。

それでも、これで、間違ってはいない。
ごくりと喉が鳴った。

「ねえ、毛利さん。チカちゃんは撃たないでよ」

腕を組んだまま気だるそうに首を傾げて佐助が云った。
こちらを見てはいない。敢えて、見ないようにしている。必死に無表情を装っている、そんな様子だった。

「佐助…まで、何、云って…?」
「気付かない振りを、してたんだ。必死に。でも、ゴメン、もう限界」

ゴメン、もう一度呟いた。今にも泣き出しそうな顔を歪めて目を閉じる。

「本当は、ずっと、分かってたんだよ」
「そう、だな…」

佐助の表情が揺らいだ。それが動揺だとすぐに分からなかったのは、彼がまさかそんな表情をするなんて微塵も思っていなかったからだ。

「チカも、ごめん」

肩に政宗の手が触れ、軽く横に押された。それは本当に僅かな力でしかなかったのに、元親は簡単にその場を受け渡してしまった。意固地になって逆らっても無意味だ。ぼんやりと思う。この場で自分一人が状況を分かっていない。多分、そうだろう。佐助も前田慶次も、状況を知っていて、この場を見守っている。状況を知っているからこそ、元就を止めようとしない。そんな風に思った。俺だけが、分かってない。全身に力が入らなかった。視界がぐるぐる回って、焦点が定まらない。それでもなんとか立っていられたのは、やっぱり、状況が分かっていなかったからだろう。

振り返って、驚いた。
同時に、佐助の動揺の理由が分かった。

笑っていたのだ。政宗が、ひどく嬉しそうに。


「アンタの言う通りだ、毛利。終わりにしよう」








ジニア/別れた友への思い









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