「えっ、巽完二について…ですか?」 放課後の教室に残り、委員会の仕事に精を出していたときだった。 突然無人の教室に乱入してきた花村先輩と他三名の先輩たちは、一直線にわたしへと歩み寄り。そして空席だらけの机や椅子に、わたしを囲んで着席した。 ……かと思えば、意味不明な質問を投げてくる。唖然とするほかにない。 「美咲ちゃん、完二くんと仲良かったよね?」 「えっ。ああはい、それなりに」 親しげに声をかけてきたのは、赤いほうの女子…天城雪子先輩。 お互いの実家の関係で、幼い頃から面識はある。何度か遊んだこともあった…ような、なかったような。そんな曖昧な関係だから、こう正面から話しかけられるとちょっとだけ面食らってしまう。 「なんか知らないかな? 完二くんの人柄、みたいなの」 「人柄、ですか」 天城先輩の台詞を継いだのは、緑のほうの女子。 ええと、里中先輩だっけ。こっちは少し自信がない。どうせなら自己紹介から始めてくれよと目を逸らすと、唯一見覚えのない男子生徒と視線があった。 びっくりして、反射的に肩を揺らす。花村先輩にけらけら笑われ、ムッとする。 「そういや初対面だよな。コイツ、鳴上 悠」 「鳴上…ああ!転入生の」 「うん。よろしく」 律儀に会釈する鳴上先輩。 花村先輩とはずいぶん親しげだけれど、なんていうか印象が真逆な二人である。真逆加減では、里中先輩・天城先輩間といい勝負だ。妙な四人組だなぁ。 「わたしは、春日部美咲です」 わたしも倣って頭を下げる。 と、鳴上さんの考え込むような顔が目に入った。思わず首を傾げる。 「春日部って、あの和菓子店の?」 「!知ってるんですか」 「うん。菜々子が好きだって言ってたから、今度買いに行こうと思ってたんだ」 菜々子、という名前に少しだけ考え込む。 該当する人間は一人しかいない。けど、確かあの子まだ小学生… 「コイツ、堂島さんの甥っ子なんだよ」 「…え、じゃあ菜々子ちゃんの従兄!? 似てなっ!」 「そうかな?」 きょとんとする鳴上先輩。 少しだけ心外そうだ。我が家常連で人見知りの菜々子ちゃんだけれど、"おにいちゃん"との仲は良好らしい。彼女の笑顔を思い出し、少し表情が緩んだ。 「じゃあ、今度買いに来てくださいね。サービスしますから」 「ありがとう。絶対いくよ」 わたしが笑い、鳴上さんが笑い。 教室に充満した和やかオーラに、慌てたのは里中先輩だった。 「じゃ、なくてっ!完二くん!完二くんの話、聞かせてくれるっ?」 「!あ、そうでしたね。ごめんなさい」 完璧に忘れてました、というと、花村先輩がポカンとする。 相変わらず面白い反応だ。里中先輩もいい反応だし、楽しいかも。 「完ちゃんのことですよね。なんでも聞いてください」 「「「「完ちゃんっ!?」」」」 驚いたのは四人同時だった。 その気迫に、勢いに、今度はわたしがポカンとする番でした。 |