辰姫神社の夏祭りは二日間行われる。
わたしの家は毎年屋台を出店しているのだけれど、今年は売り上げが落ちるかもしれないとの見通しだった。事件の影響…だろうか。三件目、記憶に新しいし。

けれどそんな心配は、杞憂だったらしい。

「あれっ。春日部さんだ」
「今年もやってんのか。お疲れ」

たった数十メートル先からやってきた出張和菓子店。
道往く人々がそれなりに買ってくれる中、立ち止まって話しかけてきたのは男子高校生の二人組だった。二人とも一学年上の先輩である。

「そちらこそ、今年も二人組ですか…」
「た、溜息つくな!」

バスケ部の一条康に、サッカー部の長瀬大輔。
腐れ縁だなんだと仲の良いこの二人は、毎年こうして夏祭りをひやかすのが恒例となっている。…なんで彼女作らないんだろう。二人ともモテるのに。

「俺はなんとなくだけど、一条は、」
「あーっ!あーッ、ぎゃー!!」
「うわー、面白い反応っすね。気になる女子がいると見た」

顔を真っ赤にして長瀬先輩の声を遮る一条先輩。
これ以上ないってくらい分かりやすい。わたしがにやにやと笑いだすと、一条先輩は半ばヤケクソになりながら長瀬先輩へと拳を振るった。避けられていた。

「ヒント…出してーけど、春日部相手じゃ即行バレんな。たぶん」
「じゃあわたしの知ってる人なんですね!」
「長瀬、やめろ!やめて!やめてください!」

あまりに必死な一条先輩にヒ…じゃない可哀想になってきたので、長瀬先輩を止める。彼には実に不満そうな顔をされたが、一条先輩は嬉しそうだ。
嬉しさに身を任せ、メニューを眺めながら大量の団子を注文してくれる。
計画通り。わたしの影はほくそ笑んだ。

「……って、なんだこりゃ。"肉団子"?」
「!」
「ああ、それですか。愛屋さんと作ったんですけど…まあ、ネタですね。本気で買うのなんか千枝先輩くらいじゃないんですか?」
「!!」

財布をいじっていた一条先輩が硬直した。
不自然な反応にわたしが首を捻る。長瀬先輩はにやにや笑っている。
なんだ…この空気。まさかアレか?一条先輩の好きな人って、まさか…

「春日部」

台に千円札を叩きつけ、一条先輩が唸る。
びっくりして顔色を窺い…更にびっくりした。目が据わっている。

「お前は何も聞いてない。そうだな?」
「え…」
「お前は何も聞いてないんだ。何も気づいてない。そうだろ?」

別人のような剣幕に押され、全力で頷く。
一条先輩は怯えるわたしに満足したのか、爽やかコーちゃんスマイルで「ならいいや」と告げた。怖い。今の顔はマジだった。マジでわたしを殺すつもりだった。

「あ、ありがとうございましたー!」

立ち去る二人の背中へ手を振る。
やばい…やばいぞ、お祭り。知られざる本性が露呈するぞ。恐ろしい。
内心震え上がったわたしに気遣うことなく、次のお客さんは続々とご来店である。次は誰が来るんだろう。どうか…どうかわたしに寛容な人でありますように!

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