我らが一年二組に転入生が来た。 なんだろう。転入生ってキャラ立ってなきゃいけないとか制限あるんだろうか。花村先輩しかり、鳴上先輩しかり。普通からはみ出してる人ばっかりじゃない。 「久慈川りせです。よろしくお願いします!」 近藤先生に並んで立ち、ぺこりと頭を下げた"転入生"。 リアルりせちーの愛らしさと存在感に、教室じゅうが沸きたった。男子に至ってはこの世の天国を見たような形相である。こっそり前の席に座る尚紀の顔色を窺ったのだが、躊躇無く脳天チョップをお見舞いされてしまった。痛い。 久慈川りせ。 マル九豆腐店の孫娘で、先日休業宣言をしたばかりのアイドル。清涼飲料ケロリーマジックのCMで有名な彼女が、本日からクラスメートになった。更に。 「よろしくね。久慈川さん」 「う、うん。よろしく、えっと…春日部さん」 なんと彼女、隣の席になった。 廊下側最後列とはみ出し席だったから、隣に新しい机を置きやすかったのだろう。隣に座った久慈川さんは緊張しているのか、赤い顔で目を泳がせている。 「わたし、名乗ったっけ?」 「ううん。でもホラ、完二が話してたから」 完二ぃ!?と驚愕する。 その声は前の席の尚紀と見事にハモり、久慈川さんは呆然としていた。わたしは尚紀と顔を見合わせて咳払いし、未だに驚いている久慈川さんへと詰め寄る。 「完二って巽完二だよね? なんで呼び捨て?」 「なんでって…喋ったから。悠先輩たちと一緒にいた人でしょ?」 「悠先輩ッ…だと…?」 まさかの名前呼び。 驚きすぎてツッコミが間に合わないんだけど…え?それって久慈川さん、転入する前に『あの集団』と知り合ってるってことでいいのかな。 「うん。ちょっとね…助けてもらったんだ」 「へえ…」 「それで一年二組に決まったって言ったら、『春日部美咲に仲良くしてもらえ』って花村先輩に言われたの。まさか隣の席だなんて思わなかったんだけど」 恥ずかしそうに笑う久慈川さん。 尚紀の姿は既にない。委員会関連で呼ばれたらしく、急ぎ足で教室から出ていってしまっている。他のクラスメートたちは遠巻きにこちらを窺っているだけで、話しかけようとする者は見当たらなかった。 「それでね、えっと…仲良くしてもらえる、かな?」 「勿論、いいよ」 「!」 久慈川さんの表情がパッと華やぐ。 かわいい。アイドルだからとかじゃなくて、もっと根本的なものが。 「でも、こんな時に転入って大変だよね」 「…うん、聞いた。諸岡先生だっけ」 彼女の喜びに水を刺すようだけれど、話題にあげずにはいられなかった。 昨日の話だ。 二年生の担任をしていた諸岡先生が、霧の朝に遺体で見つかった。 詳しくは見ていないから知らないけれど、なんでも山野真由美・小西早紀先輩の時と遺体の状況が似ていたらしい。連続殺人の三件目になるのだろうか。 「怖いよね。次が無いといいんだけど」 ほとんど独り言のように呟いて、はっとした。 久慈川さんにこんな話してどうするんだ。転入したばかりで不安だろうに、暗い気持ちにさせちゃっただろうか。慌てて明るい話題を探したが、思いつかない。 ……なんだろう。マヨナカテレビとか? …明るくないな! 「あの、ね。春日部さん」 うつむきながら呟く久慈川さん。 美咲でいいよと言うと、心底嬉しそうに笑って「私のことも"りせ"って呼んでね」と頬を赤くしていた。表情が多くて、見ていて楽しい。 「美咲、あの…私、頑張るからね!」 彼女の言葉の意図は分からない。 分からなかったから期末テストの話かと尋ねると、彼女の笑みが瞬時に消えた。暗く重く、そりゃあもう嫌そうな顔で「…そんな感じかな」と吐き捨てる。嘘つけ。 |